DSは歴史を考慮すべき 「ラグジュアリー車」目指すってどういうこと? 英国記者の視点

公開 : 2025.03.24 06:45

DSのデザイン責任者は、ベントレーやロールス・ロイスに匹敵する超高級車ブランドになるのが「夢」だと語っています。しかし、DSらしい個性はどこへいったのか。AUTOCAR英国記者は疑問を投げかけています。

「DSらしさ」とは何か、再考を

DSがBMWメルセデス・ベンツなどのプレミアムブランドのライバルになれると楽観視しているのはいいとして、皆さんはDSが「自動車業界のルイ・ヴィトン」になりたいと考えているというニュースをどう思うだろうか。

ちょっと真剣に考えてみよう。DSのデザイン責任者ティエリー・メトローズ氏は、これは「夢」であり、実現するには10年かかる可能性があり、また最終的には実現できない可能性もあると認めている。

シトロエンDS19は高級車だったが、ロールス・ロイスに匹敵するような価格帯ではなかった。
シトロエンDS19は高級車だったが、ロールス・ロイスに匹敵するような価格帯ではなかった。

もし実現すれば驚きだ。しかし、既存のステランティスのプラットフォームを少しいじるだけでは実現しないだろう。たとえ新型クロスオーバー『No8』の内装が「ドイツの競合他社よりもベントレーに近い」ものだとしても、だ。

フロントガラスを車体後方に押しやり、ルーフラインを低くしたとしても、特に説得力があるとは思えない。

真のラグジュアリーは、これまでDSが足を踏み入れてこなかった領域である。1955年のシトロエン『DS19』のような象徴的なクルマでさえも到達していない。

確かに、これはかなり昔の話だが、もし重要ではないと考えていたのであれば、そもそもDSという名称を再利用することはなかっただろう。

新車当時のDS19の英国価格は、他のシトロエンモデルよりも150ポンド高く、1400ポンドを超えていた。これは多くの購入者にとって高すぎる設定だったが、それでもラグジュアリーというほどではなかった。

当時のベントレー・コンチネンタルの英国価格は3295ポンド、ロールス・ロイス・シルバークラウドは3395ポンドだった。コーチビルダーの手にかかると、さらに高額になる。

DS19は、そのような価格帯のクルマではなかった。ロールス・ロイスが「世界最高のクルマ」として宣伝されていたのと同時期に、DS19は「世界で最も先進的なクルマ」として宣伝されていた。

現代のDSは、世界で最も先進的なクルマの1つになり得るだろうか? 可能性はあるが、仮にステランティス最新のバッテリーやモーター技術を採用したとしても、圧倒的な強みを獲得しなければ、その壁を打ち破ることはできないだろう。

それに、一般の自動車購入者は、オリジナルのDSが先端技術を搭載していたことを知っているだろうか? 覚えているだろうか? 気にするだろうか?

覚えているのは、見た目だけだ。70年経った今でも、独特で美しく、ある意味では未来的な形をしている。クルマに詳しくなくても、そのデザインを知り、評価することができる。

それなのに、メトローズ氏が内装素材や「個性あふれる魅力的なデザイン」についてあれこれと主張するのは、筆者には奇妙に思える。なぜなら、DSはオリジナルにわずかな敬意を表しているものの、はっきりと識別できる特徴やスタンス、ライン、あるいは信じられないほどのエレガンスを備えたクルマではないからだ。

筆者には、No8は21世紀のDS19には見えない。

人によって意見は異なるだろう。しかし、バッジなしでこのクルマを見せられ、どこのメーカーのものかと尋ねられたら、筆者はこう答えるだろう。「さっぱりわからないね」と。

レトロな雰囲気を避けたのは明らかに意図的なものだ。シトロエンのデザイン責任者であるピエール・ルクレール氏は最近、2CVの復活の可能性について次のように述べた。

「シトロエンに期待されるのは、これまでの優れたクルマの形状を再現するということではない」

そのコメントは十分に賞賛に値する。なぜなら、自動車デザイナーは新しいものをデザインするのが好きだからだ。しかし、顧客が本当に求めているのは新しいものだろうか? 形状はそのままに、フィロソフィーを変える方が無難な選択のように思える。

ランドローバーディフェンダーフィアット500、ミニを例に考えてみよう。これらのモデルは生産を中断していた時期があるが、数十年も前のデザインを現代風にアレンジしたものだということが容易に理解できる。この領域に乗り込んできたのがルノー5である。

5は最近、いくつかの大きな賞を受賞したが、ルノーにとって最も喜ばしいのは、今年1月にフランス国内で約1万台が販売されたことだろう。

筆者が自動車会社を経営していない理由はこのあたりにあるのかもしれない。

しかし、もし筆者がDSブランドを再始動させ、可能な限り高級路線で展開しようと考えたとしたら、まず最初にすることは、新しいDSを作ることだろう。

記事に関わった人々

  • マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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