実は来日経験アリ ローバー2000 TCZ(2) 量産を拒んだ傘下のブランド SF映画へ登場しそう

公開 : 2025.04.13 17:46

事業拡大に積極的だった1960年代のザガート スパーダが描いた個性的なクーペ SF映画へ登場しそうなシルエット 量産を拒んだ傘下の他ブランド 来日経験もある貴重な1台を英編集部がご紹介

来日経験もあるワンオフのローバー2000 TCZ

ローバー2000 TCZをジョン・ハムシャー氏が購入した価格は、1984年当時で1万ポンド。彼には高額な提示だった。「二度とないチャンスで、お金を使うことは不安でしたが、購入を決断しました。ディーラー側は、無事に売れるか心配していたようです」

それから40年が過ぎ、現在の推定価値は約20万ポンド(約3900万円)。恐らく、世界で最も高価なローバー2000なはず。投資としては、大成功といえるだろう。

ローバー2000 TCZ(1967年/ワンオフモデル)
ローバー2000 TCZ(1967年/ワンオフモデル)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

「ユニークなクルマを運転しているという、不思議な感覚が初めは面白かったですね。一緒の時間が増える内に理解も深まり、何でも修理できるようになりました」

最も大きな作業は、フロアパンの修復だという。「スロベニアのトリエステまで、これで旅行しています。大雨で雨漏りして、水をかき出しながらね」

テールライトは、ボルボのトラックから流用されている。ハムシャーは、予備部品として10ポンド(約2000円)で購入し、ストックしているそうだ。

購入時の走行距離は、6万4000kmだった。イタリアには何度も訪れており、現在は10万km近くまで伸びている。ザガートの100周年イベントのため、日本にも運んだことがあるとか。

「ジャンニ・ザガートさんの息子、アンドレアさんは、このクルマのことを覚えていました。当時はまだ7歳だったようです」。しかし82歳を迎えていた、デザイナーのエルコレ・スパーダ氏との再会が叶わなかったことを、ハムシャーは悔やむ。

当時のSF映画へ登場しそうなシルエット

コンセプトカーの例に漏れず、2000 TCZはモーターショーで沢山のスポットライトと視線を浴びるために作られている。「数年前には、これを実際に走るよう設計した人物ともお会いしました。ロンドンのローバーの本社で。3か月も要したそうです」

笑顔を見せるハムシャーは、600台作られたランチアフルビア・ザガートの1台もコレクションしている。現在は、ザガート・ボディのフィアット125 GTZとボルボ142 GTZを探しているという。

ローバー2000 TCZ(1967年/ワンオフモデル)
ローバー2000 TCZ(1967年/ワンオフモデル)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

「ボディは当初からホワイトでした。でも、ナンバープレートは途中で変わっています。1968年に英国で購入され、その後に変更されました。DVLA(英国運転免許庁)に書簡を送り、当初付けていたFXCのナンバープレートを取り寄せたんですよ」

信頼性は低くないが、手間はかかるらしい。「エンジンの圧縮比が高いので、調整は難しいです。整備を請けてくれるガレージを探すのに、苦労しました。99オクタン E5ガソリン用に調整してあります」

シンプルなボディに、クロームメッキ・トリムなどは殆どない。当時のSF映画へ登場しそうなシルエットは、今でも古びない。細いタイヤとスチール製バンパーが、半世紀以上前のクルマなことを物語る。

デザイナーのスパーダは当初、ジャガーXJ-S風の太いリアピラーやひし形のヘッドライト、凹型のテールなどを検討していたらしい。最終的には、熟成度の高い容姿へ落ち着いている。

フィアット125 GTZより、筆者にはカッコよく見える。ランチア・フルビア・スポルトにも劣らない、イケメンだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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