【新連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#1自動車ロマン再発見!
公開 : 2025.03.21 12:05
自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。新連載最初となる第1回は、『自動車ロマン再発見』を語ります。
自動車におけるロマンとは、故障である!
自動車はロマンだ。少なくとも今のところはギリギリセーフで。
自動車は自由の翼。それに乗れば、いつでも好きなところに行ける。自動車はこん棒でもある。人間の力を増幅してくれる。これがロマンでなくて何だろう。

自動車はその黎明期から、人々の心を鷲掴みにし、自動車マニアという人種を生んだ。当然の帰結だろう。
ところで『ロマン』とは何か。それは『夢や冒険への憧れを満たすもの』だ。
夢や冒険は、必ずしも実現しない。つまり不確実性がある。だからこそ人々は惹かれる。絶対確実だったら、ロマンもヘッタクレもない。
つまり、こうとも言える。
『自動車におけるロマンとは、故障である』
そんなバカな! と思われるだろうが、「故障するかもしれない」という懸念がゼロだったら、そこにロマンはあるだろうか?
いや、もちろん、トヨタ車に乗って海岸線をどこまでも走って行けば、故障する懸念はほぼゼロでも、「ロマンだな~」とは感じるだろう。しかしそれはトヨタ車のロマンではなく、海岸線をどこまでも走って行くロマンだ。
あるいはこうも言える。
『自動車におけるロマンとは、ムダである』
ムダは実にムダだ。しかしムダのない人生など、ロマンのかけらもない!
電気モーターは、エネルギー変換効率8割以上。ムダが少ない。一方内燃エンジンはムダだらけ。エネルギー変換効率はせいぜい3割と言われている。
両者を比較すれば、ムダの多い内燃エンジンのほうが圧倒的にロマンだ。そもそも燃焼という反応自体、電磁力と違って音や振動を豊富に発してわかりやすい。ムダの勝利である。
ここまでをまとめると、自動車におけるロマンは、『故障するかもしれない内燃エンジン車を買うこと』という結論になる。「それは違うだろ!」というご意見もあるでしょうが、一例として。いや代表例ですかね?
中古フェラーリ購入は自動車ロマンのマキシマム!
私はサラリーマンだった31歳の時、初めて中古フェラーリを買った。今から33年前のことだ。
当時それは、とてつもないリスクを伴う行為だった。なにしろフェラーリは世界一故障すると思われていたし、同時に世界一官能的な内燃エンジンを積んでいた。これぞ自動車ロマンのマキシマム! 分不相応な超絶高望みの恋だった。

その後私は中古フェラーリを13台乗り継ぎ、現在に至っているが、もう慣れきってしまって、ほとんど何のリスクも感じなくなった。
そりゃまぁ、今乗っているフェラーリ328GTSは36年も前のクルマで、それなりに故障のリスクはあるし、今でもフェラーリのV8をレッドゾーン手前までブチ回せば、神が見えるほどのトランス状態に陥る。328は昔のスポーツカーだけに、現在のクルマに比べると大層不安定で、全開にするとフッ飛びそうにも感じる。
しかし33年間同じようなことをやっていたら、ロマンもロマンでなくなって当然。これ以上フェラーリを乗り替えても、新たなロマンはないだろう。だったらずっとお前に乗り続けるぜ、スッポン丸(注:愛称です)よ。328最高!
そのような深い絶望の淵に沈んでいた時、私はふと、あるクルマのことが脳裏に浮かんだ。さっそくスマホで中古車サイトを検索したところ、激しい衝撃を受けた。
「ここここ、こんなに安いのぉ~~~~っ?」
あるクルマの名は、マセラティ・クアトロポルテ(先代)。フェラーリ製V8エンジンを積んだ、官能的すぎるセダンだ。デザイナーは、ピニンファリーナ在籍時の奥山清行氏。氏の最高傑作であると言われる。
それがなんと、最安で総額99万円から売られているじゃないか!!
私は全身に電気が走った。雷に打たれたと言ってもいい。強烈なロマンを感じたのだ。
(つづく/毎週金曜日昼頃公開予定)
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