【現役デザイナーの眼:デザイン手法】ブレイクスルーを起こしたクルマ3選

公開 : 2025.03.24 08:05

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が、BMW Z4、レクサスNX、シトロエンC4ピカソを例に、カーデザインの転機を解き明かします。

新たな面表情を創出した、初代『BMW Z4

デザイナーは、常に新しい表現を模索するものですが、時に考え付かなかったアイデアを取り入れたクルマが発表されます。そうすると、世界中のデザイナーがそれを応用して発展させるものです。

今回は、ここ20年くらいの間で『デザイン手法』のブレイクスルーを起こしたクルマを3台挙げました。厳密にいえばもしかしたら、各項目で最初に採用したクルマではないかもしれませんが、これらをきっかけにして他に広まったと感じています。また、デザイナーの仕事の一端も感じていただけたら幸いです。

初代BMW Z4。下の絵は、そのドア下部をPhotoshopで軽く描いたもの。デジタルスケッチならではのシャープなラインと、フワッとした部位とのコントラストに注目。
初代BMW Z4。下の絵は、そのドア下部をPhotoshopで軽く描いたもの。デジタルスケッチならではのシャープなラインと、フワッとした部位とのコントラストに注目。    BMW

さて、クリス・バングルが指揮をとっていた当時のBMWデザインは、特に保守的な方々から批判もありました。それまでのBMWはいかにもドイツ車的に質実剛健なデザインでしたが、それを劇的に変えていったので戸惑う方も多かった印象があります。しかしその中で、私はひとつの表現にハッとさせられました。

私がカーデザイナーになりたての頃、ちょうどマーカーや色鉛筆による手描きスケッチから、Photoshopとペンタブレットでのデジタルスケッチに移行しようとしていました。Photoshopスケッチでの技法のひとつに、画面上で『選択範囲』と言う、いわゆるマスキングを作成してからブラシで塗る、というものがあります。それで選択範囲の際を塗ると、境界線はビシッとシャープな印象に、その他の部位はフワッとした印象になります。これは手描きでは簡単に表現しづらいものです。

その表現が、デジタルスケッチ転換期である2003年発売の、初代BMW Z4に取り入れられています。わかりやすいのはドア下部の表現です。このドアから上向き面に滑らかに繋がっているのは『ネガR*が大きい』ということを意味します。

元来、カーデザインは凸面をしっかり見せることで、塊感を出しています。ネガRが大きいと、凹面に見えてしまい、カーデザインの表現としては不適切だと考えられていました。もしかしたらBMWのデザインチームは、この『デジタルならでは』の表現に注目して、これを取り入れたのではないかと思うのです。その後2008年のコンセプトカー『ジーナ・ライト・ヴィジョナリー・モデル』では、細いフレームに布を被せて面を作っていましたが、これがその表現を端的に表したデザインではないでしょうか。

それ以来、多くのメーカーで大きなネガRが『面の表情』の定番になりました。これは、デザイナーの道具で表現手法が変わったとも言えるかもしれません。

*ここで言う『ネガR』とは、面と面が谷折りで相貫している部位につける丸み。RはRadius(半径)の意。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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