【現役デザイナーの眼:デザイン手法】ブレイクスルーを起こしたクルマ3選
公開 : 2025.03.24 08:05
カーデザインの固定概念を覆した、初代『レクサスNX』
カーデザインには『軸』と言われる、意識しなければならないものがあります。塊感を表現するのに、軸を意識してデザインや造形をする、とお伝えすれば良いでしょうか。ひとつの塊に見えないと、途端にバラバラに見えて魅力が無くなるものです。その表現で重要な役割なのが、前後を繋げているドア面です。ピークを明快に作り、それを前後に伸ばすことで軸を感じさせるもので、クルマの造形の基本です。
それを根本から覆したと感じたのが、2014年発売の初代レクサスNXです。その重要であるドア面を大胆にカットし、そこにフロントフェンダーを乗せた構成をしていて、ドア面のリフレクションは斜めに落ちています。

これには驚きました。こんな表現していいんだ、という目から鱗的感覚だったのですが、このレクサスNXの上手いところは、フロントとリアのシルエットやフロントフェンダーのリフレクション、ショルダーラインなどがリンクしていて、途中が削られていてもなんとなく軸を感じさせているという事です。
つまりドア面で物理的に繋いでいるのではなく、全体で軸を『感じさせる』という手法で、その後のカーデザインに大きく影響を与えたと思っています。
さらにこのNXは、サイドシルエットでも大きな特徴を持っています。ルーフのピーク(頂点)が、通常よりだいぶ後方の、Cピラーあたりにあります。これで独特のくさび形シルエットを形成していて、今のトヨタ車全般のデザインにも大きく影響を与えています。
このように、常識でないデザインを2つも取り入れているにも関わらず、まとまった印象のあるこのレクサスNXに、改めてトヨタデザインのレベルの高さを感じずにはいられませんでした。
顔の比率を劇的に変えた2代目『シトロエンC4ピカソ』
クルマの顔のデザインは、いつの時代も難しいものです。ちょっとした比率や線使いで印象が大きく変わるので、トレンドを横目で見つつ、あの手この手で変化をつけていました。例えば10年ほど前からグリルを大きく、ヘッドランプを薄くすることがトレンドのひとつになっています。しかし、特にヘッドランプの薄型化は、物理上限界があるんですよ。
当時『シグネチャーランプ』というものが流行りだしました。これは主にDRLと呼ばれるランプを特徴的な光り方にして車種の個性にしようとするもので、私が勤めていた会社でもその取り組みがありました。

しかし、元々あるヘッドランプの本体にそのシグネチャーランプ、さらにはターンランプも組み込むと、おおよそランプの大きさが決まってしまい、特にコストをかけずに薄くするのは難しかったのです。それは他社でも同じことでした。
それが、2013年に発表された2代目『シトロエンC4ピカソ』を見た瞬間、衝撃が走りました。シグネチャーであるDRLとヘッドランプ本体を完全に切り離し、DRLをメインの表情に使い、本体をあたかもフォグランプのように脇役で扱っているではないですか! この考えで顔まわりの自由度が格段に増した結果、各社がこぞって取り入れました。
ヘッドライトをフォグランプのように扱うのは、初代『日産ジューク』が初めだと思います。しかし、それはかなり特殊なデザインであり、普通のクルマには取り入れられないと勝手に決めつけていました。このアイデアを『一般化』したシトロエンのデザイナーはすごいと素直に思ったものでした。
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