復活がココから始まる ランチア・イプシロンへ試乗 走りの印象はe-208似 マイルドHV版も

公開 : 2025.04.01 19:05

ストラトスを彷彿とさせるテールライト

「多くの関係者から、ランチアで働いて欲しいと連絡をいただきました。彼らは情熱的で、復活に関して話が進むと、目を輝かせていましたね」。現在クリエイティブ部門を率いる、ジャン・ピエール・プルエ氏がイタリアの雑誌による取材で答えている。

彼は、初代ルノートゥインゴシトロエンC6DS 3などを手掛けた鬼才。ランチアの復活では、「意味性」「象徴性」「一貫性」「折衷性」という、4つのデザインの柱が掲げられた。

ランチア・イプシロン・エレットリカ(欧州仕様)
ランチア・イプシロン・エレットリカ(欧州仕様)

新しいイプシロンを眺めてみて、「意味性」は少し掴みにくい。それでも「象徴性」に関しては、ストラトスを彷彿とさせる丸いテールライトが該当しそうだ。

「一貫性」と「折衷性」は、相反する関係性に思える。少なくとも、スタイリングのまとまりは高く、フロントグリルは特徴的だ。

インテリアにも、観察したくなるディティールは多い。細かな加工が施されたエアコンの送風口にウッドトリム、アールデコ調なダッシュボードのグラフィック、センターコンソールの丸いテーブルなどは、いずれも目新しい。

丸いカタチはドアの内張りにも展開され、タッチモニターの上部に載る「サラハブ」にも与えられている。これは、サウンド・エア・ライト・オーグメンテイション(改善)の略で、車内での体験を統合するアシスタント・インターフェイスらしい。

シートは、ストライプ状のグラフィックが施されたベルベット張り。肌触りも良く、それぞれじっくり確かめたくなる。

航続距離は402km 復活させる価値は大きい

イプシロン・エレットリカの航続距離は、カタログ値で402km。目的地にした郊外のホテルまでの260kmは余裕でこなせると考え、トリノを出発した。

しかし高速道路の制限速度、130km/h前後で進むと、予想距離はみるみる短縮。問題なく到着できたが、相応の充電が必要になった。

ランチア・イプシロン・エレットリカ(欧州仕様)
ランチア・イプシロン・エレットリカ(欧州仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

ホテルの周辺には、沢山の充電器が敷設されている。イタリアの石油大手、エニ社が展開する充電サービスは、簡単なアプリ登録で利用可能。おしゃれなデザインの、CCSハイパーチャージャーを利用することに。

イプシロンの急速充電は、最大100kW。朝食を終えてハイパーチャージャーへ繋ぐと、89kWの速さで駆動用バッテリーへ電気が送られていく。満充電まで、1時間もかからないだろう。

ところが、突如停止。ケーブルを繋ぎ直しても、充電は再開されない。

続きざまに、イプシロンから大きな警告音と、「電動トラクション・システムのエラー:ユーザーマニュアルを確認してください」という文字がモニターへ表示された。その後の技術者の話では、目立った不具合は確認できなかったらしい。

FCAヘリテージ・ハブで働くスタッフの1人は、イプシロンへ興味を示すイタリア人は多くないと口にしていた。デザインやハッチバックボディに、納得していないという意見も耳にするそうだ。

ランチアの前には、まだ困難が存在するようではある。とはいえ歴史を考えると、復活へ向けて情熱的に努力する価値が大きいことは、間違いないはずだ。

番外編:一度は訪ねたいFCAヘリテージ・ハブ

トリノのFCAヘリテージ・ハブを訪れて、筆者は改めて強く感銘を受けた。この壮大なコレクションに匹敵するモデルを展示できるメーカーは、他にあるだろうか。

斬新なモノコック構造を他に先駆けて導入した、1920年代のスタイリッシュなラムダ。スポーティで美しい、アウレリア B20 スパイダー。未来的なウェッジシェイプを取り入れたベータ・モンテカルロに、ストラトス。シャープなデルタは、今でもカッコいい。

フィアットとランチアのクラシックカー・コレクション、FCAヘリテージ・ハブの様子
フィアットとランチアのクラシックカー・コレクション、FCAヘリテージ・ハブの様子    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

カロッツエリアによる見事なボディをまとった例もあれば、F1や世界ラリー選手権で優勝したマシンまで、カテゴリーの幅にも驚かされる。これほど栄華を極めたブランドが、絶滅の危機へ追い込まれたことが、不思議でならない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    クリス・カルマー

    Kris Culmer

    役職:主任副編集長
    AUTOCARのオンラインおよび印刷版で公開されるすべての記事の編集と事実確認を担当している。自動車業界に関する報道の経験は8年以上になる。ニュースやレビューも頻繁に寄稿しており、専門分野はモータースポーツ。F1ドライバーへの取材経験もある。また、歴史に強い関心を持ち、1895年まで遡る AUTOCAR誌 のアーカイブの管理も担当している。これまで運転した中で最高のクルマは、BMW M2。その他、スバルBRZ、トヨタGR86、マツダMX-5など、パワーに頼りすぎない軽量車も好き。
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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