NSXの前奏曲!今明かされる『ホンダHP-X』の全貌【#03テスタロッサを描いた男】

公開 : 2025.03.28 11:45

2024年8月、北米モントレーで開催されたペブルビーチ・コンクールデレガンスに、ホンダHP-Xと呼ばれるコンセプトカーが出展されました。その歴史を紐解いていくと、実はNSXとの関係性を見いだせるのです。越湖信一による短期集中連載、その第3弾です。

ディエゴ・オッティナの証言

ここで登場するのが、このホンダHP-Xを描いたディエゴ・オッティナだ。

オッティナは1941年トリノ生まれで、自動車デザインに関する専門教育は受けていなかったものの、ジョヴァンニ・ミケロッティにその才能を見出され、1970年にピニンファリーナへ移籍した。

フェラーリ・テスタロッサのデザインも描いたディエゴ・オッティナ。
フェラーリテスタロッサのデザインも描いたディエゴ・オッティナ。    ディエゴ・オッティナ

若くしてフェラーリ初の4ドアモデル、『フェラーリ・ピニン』(コンセプト)を手掛けたほか、テスタロッサを手掛けた。時期的にはかぶっていないものの、テスタロッサを仕上げて、まもなく取り組んだのがHP-Xであった。

「デザインセンター内のコンペで私の案が選ばれましたが、ホンダからの制約は特になく、ピニンファリーナに全てがゆだねられていました。ですから、デザイナーたちは革新的なアイデアを求めて自由に表現することができました。第一ステップでHP-Xのコンセプトを開発し、そこからインスパイアされた市販モデルを開発するというのが当初の考え方であったと思います」とオッティナ。

ピニンファリーナとしては通常の市販モデル開発のプロセスを想定し、当然、ピニンファリーナ・ロゴが付いた市販モデルへの関与を目標にプロジェクトを進めたわけだ。

「私のアイデアでは、常にシンプルなラインを表現すると同時に、デザインに強い個性を与えることを考えました。HP-Xは、塗りわけたボディカラーによってウェッジシェイプをより強調しました。サイドラインはリアにまわり込み、サイドのエアインテークとリアボンネットのエンジンクーリングホールを隠す機能を持つのです。リアは、アンダーボディのディフューザー形状が特徴的です」

とオッティナが続ける。リアのディフューザーを含む空力デバイスは、ピニンファリーナの風洞実験に基づいて幾度も修正が加えられ、コクピットは、F104戦闘機のドームのような完全に透明なキャノピーを考案した。フロントエンドは、ホンダのロゴにインスパイアされたデザインであるという。

未来のNSXに向けて開発が行われた証

実際のモデル製作はオッティナのようなデザイナーの手を離れて行われるが、HP-Xはピニンファリーナの風洞実験室にて長期間に渡る空力最適化の作業が行われたという。これは、このHP-Xが単なる形だけのモックアップではなく、未来のNSXに向けて開発が行われたことの証でもある。

「スタイリングに関しては、既存モデルの焼き直しにならないように個性を明確にすることを第一義としました。ダイナミックなボリューム感との全体のプロポーションのバランスを取るのが極めて難しい作業であったことは間違いありませんでした。40年経った今の目で、HP-Xを眺めてみても、とてもよくコンセプトが熟成されており、その魅力は色あせていないと思います。

当時ピニンファリーナの風洞実験室で最適化の作業が行われたHP-X。
当時ピニンファリーナの風洞実験室で最適化の作業が行われたHP-X。    ピニンファリーナ

シャープなラインは強い個性を保ち、今日でもモダンに見えます。私がほぼ同時期に手掛けたフェラーリ・テスタロッサも40年が経過していますが、両モデルともコンセプトはまったく異なるものの、明確なコンセプトの元、優れたスタイリングが完成されたことがわかると思います」

オッティナの指摘ではないが、HP-Xのボディサイドからリアにまわり込んだルーバー状の凹ラインは、テスタロッサのサイドラジエーターからリアへと回り込むグリル状のルーバーとの間に共通項が感じられるではないか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    越湖信一

    Shinichi Ekko

    イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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