NSXの前奏曲!今明かされる『ホンダHP-X』の全貌【#05そして復活へ】

公開 : 2025.03.30 11:45

2024年8月、北米モントレーで開催されたペブルビーチ・コンクールデレガンスに、ホンダHP-Xと呼ばれるコンセプトカーが出展されました。その歴史を紐解いていくと、実はNSXとの関係性を見いだせるのです。越湖信一による短期集中連載、その第5弾(最終回)です。

ピニンファリーナが所有権を持ち、幸いにも保管されていた

この1984年にトリノ・ショーでデビューを飾ったコンセプトモデル『ホンダHP-X』は、同じくトリノ・カンビアーノにあるピニンファリーナ本社で眠っていたわけだ。

前述したホンダに納品されたコンセプトモデルの行方は筆者の知る限り不明であるが、こちらのコンセプトモデル(エンジンが搭載されないスタティックモデル)はピニンファリーナが所有権を持ち、幸いにも保管されていたのである。

ピニンファリーナのチームにより、約2ヵ月をかけて修復作業が行われた。
ピニンファリーナのチームにより、約2ヵ月をかけて修復作業が行われた。    ピニンファリーナ

何十年もの間、公開されることなく保管されていたため、多少の修復は必要であったが、状態は予想よりかなり良好だったという。とはいっても、ボディサイドにはさまざまな傷やへこみが見受けられ、タイヤはパンクしていた。

1984年にエポキシ樹脂と木材で作られたこのモデルは、構造的には無傷だったが、ボディ表面は経年劣化と温度変化による材料の収縮のため、ひび割れが発生していたのだ。ポリエステル樹脂で作られたホイールカバーにも収縮によるひび割れが見られた。一方、インテリアは無傷で、それなりの状態を保っていたようだ。

「修復作業には約2ヵ月を要しました。これには、オリジナルカラーによる完全な再塗装と、透明レイヤーの下での塗装によるロゴと文字の修復が含まれました。フロントライトやリアライトなど、いくつかの部品は分解してクリーニングをしなければなりませんでした。

4本のタイヤはオリジナルがピレリP7でしたが、そのサイズは既に生産終了しているため、別ブランドのタイヤに交換する必要があったのです。つまり交換を行ったのは新たに製作したプレキシグラスのキャノピーとタイヤだけで、他は全く当時のままなのです」とフランチェスコは語る。

1980年代の材料や修理技術を分析

オリジナルのコンセプトが先進的で実験的なものであったため、1980年代の材料や修理技術を分析する必要があった。コンセプトカーが完全に解体され、クリーニングされ、元通りになる工程を眺めることができたなら、さぞ魅力的なことであっただろう。

これは製作当時のスタッフたちのアドバイスが、大いに役立ったとフランチェスコは回想する。このデジタル時代では考えられないことだが、このクルマはほぼすべてがハンドメイドでデータ作成が行われ製作されたのだ。

ピニンファリーナの社内で行われたホンダHP-Xの修復作業の様子。
ピニンファリーナの社内で行われたホンダHP-Xの修復作業の様子。    ピニンファリーナ

ところでこの芸術品とも呼べるHP-Xコンセプトを、私たちはいったいどこで見ることができるかは大変興味深い。そう、幸いなことにその公開に関してピニンファリーナはいろいろと骨を折っているようなのだ。

フランチェスコによるとロサンゼルスのピーターソンミュージアムで展示が行われ、続いてトリノのピニンファリーナへ戻されるという。であるから、ピーターソンミュージアムか、しばらく後にピニンファリーナ本社内のミュージアムにて私たちはこのHP-Xにお目にかかることができる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    越湖信一

    Shinichi Ekko

    イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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