個人的に思い入れの強い、1960年代コーギー製ミニカー【長尾循の古今東西モデルカーよもやま話:第5回】
公開 : 2025.03.26 17:05
元モデル・カーズおよびカー・マガジン編集長である長尾循による、古今東西モデルカーにまつわるよもやま話です。第5回は個人的に思い入れの強い、1960年代コーギー製ミニカーについて語ります。
1933年にイギリスで誕生した『メットーイ』
1933年にイギリス・ノーザンプトンで誕生した『メットーイ(Mettoy)』をご存知でしょうか? ユダヤ系ドイツ人のフィリップ・ウルマンが、ナチスの迫害を逃れイギリスに移住。同じくユダヤ系ドイツ人のアーサー・カッツとともに立ち上げた玩具メーカーです。
社名はメタルとトーイを合わせた造語で、ブリキのクルマや汽車などの金属製玩具を手掛けたことから付けられました。もともとフィリップ・ウルマンとアーサー・カッツは、ニュールンベルクの玩具メーカー、ティップ社で長年働いていた上司と部下という関係。世界情勢や政情の変化によってそれまでの仕事を続けられない状況に陥るということは、現代を生きる我々にとっても他人ごとではありませんね。

さて、新天地イギリスで新たな玩具メーカーとしてスタートしたメットーイですが、第二次世界大戦が終わるとブリキのクルマに代わる新たな玩具の製造に乗り出します。それがダイキャスト製法によって製造される亜鉛合金製のミニチュアモデルカー、いわゆるダイキャストミニカーでした。
ちなみに昨今では模型専門誌などでも『ダイキャスト製ミニカー』という表記が見受けられますが、ダイキャストといえば製法であって素材ではないので厳密にいえばこれは間違いですね。
ともあれ、メットーイは新たな基幹製品をスタートさせるにあたり、それに新たなブランド名を与えることとしました。それが『コーギー(CORGY)』です。
コーギーとはもちろんウェールズ原産の犬種からの命名。かのエリザベス女王の愛犬としても知られており、そこには英国を代表するミニカーブランドたらんとする意気込みも感じられます。そんなコーギーの、初めてのミニカーが登場したのは1956年7月のこと。記念すべき第一作目は、英国フォードのコンサルでした。
先行するブランドに対し後発組となるコーギー
イギリスをはじめとする欧州のダイキャストミニカーの市場では、すでに最大のライバルとなる『ディンキー』や、ちょっと小さな『マッチボックス』のミニカーが好調なセールスを記録しており、それら先行するブランドに対し後発組となるコーギーは、差別化を図るために当初から透明なプラスチック製のウィンドウを装着するなど、よりリアリティを追求した作りを目指していたのが特徴でした(初期のディンキーやマッチボックスには、まだウィンドウは装着されていませんでした)。
トラディショナルな作風のディンキーに対し、革新的なアイデアで勝負のコーギー、といった両社の歴代製品の印象はそんな異なる出自の所為かもしれません。

といった事情はオトナになるにつれわかってきたことであり、自分が少年時代のコーギーといえば、他ブランドの輸入ダイキャストミニカー同様、ただただ『誕生日やクリスマスなどの特別な日にしか買ってもらえない、憧れの超高級精密玩具』でした。そんなコーギーのミニカーの中でも、特に忘れられないのが今回ご紹介するこちらの2台です。
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