【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#2激安中古車のロマン

公開 : 2025.03.28 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。第2回は『激安中古車のロマン』を語ります。

世の中は変わった

ロマンとは、夢や冒険への憧れを満たすもの。夢や冒険なのだから、リスクや費用は高ければ高いほどハードルは高く、それだけステージも高いことになる。南極大陸犬ゾリ横断などは、その最たるものだ。

自動車におけるロマンも同様で、故障のリスクや値段は、高ければ高いほど実現可能性が遠ざかり、ロマンは無限大になる……はずだ。

かつて清水草一がロマンを感じた、マセラティ430の中古車(写真は新車当時のもの)。
かつて清水草一がロマンを感じた、マセラティ430の中古車(写真は新車当時のもの)。    マセラティ

しかし世の中は変わった。現在、値段の高いクルマは単に高いだけで、夢や冒険の要素は激減している。故障なんてまずしないし、購入後、値段が上がってしまったりするのだから。

新車のスーパーカーなんて、ロマンというより勝ち組の貯金みたいなもの。新車のスーパーカーを買えるところまでのし上がるのはロマンでしょうけど!

現在の自動車ロマンは逆だ。値段が安ければ安いほどロマンである。

私は数年前、激安中古車専門店を取材した。総額10万円台の軽が、資材置き場のようなところにズラリと並び、のぼりには『いま乗って帰れます』と書いてあった。小屋の中に店の人がひとりだけいて、どれを買うか決めてから呼ぶ。最短30分で契約完了。

車検が残っているクルマで、その場で任意保険に加入できれば、自身で名義変更をすることを条件に、その日に乗って帰れるという、自販機のようなシステムだった。

自分がその店の三菱eKワゴン(総額9万8000円)を買うことを想像するとドキドキした。何年持つのか。ひょっとしたら10年くらい元気に走ってくれちゃったりするのか!? さすが国産車の信頼性はスゲエ! いやわかりませんけどね、わからないってロマン!

最安99万円から売られている!

いま、「安いっ!」と感じる中古車は希少である。特にカーマニアの心を揺さぶる要素を持つ激安車は、ダイヤの原石と化した。

10年ほど前まで、ランチア・デルタ・インテグラーレには激安車が存在した。150万円くらいで売られている個体がたくさんあった。愛好者は多いけど、極めて高い確率で故障すると信じられており、150万円のインテグラーレを買うのは、とてつもないロマンだった。

これぞダイヤの原石? 先代マセラティ・クアトロポルテ(写真は新車当時のもの)。
これぞダイヤの原石? 先代マセラティ・クアトロポルテ(写真は新車当時のもの)。    マセラティ

それが今じゃ最安で総額888万円! 最高なんと4800万円!! 私は4800万円のインテグラーレに、なんのロマンも感じない。ただただ「狂ったか!」である。もうこの世にロマンはない。すべては熱狂の市場原理に支配され、ロマンも掘り出し物も死に絶えた。

ところが! 先代マセラティ・クアトロポルテは、最安99万円から売られている。フェラーリV8積んでるのに! デザインだって最高なのに! なんでなんで? なんでこんなに安いの? だってほとんど同じエンジンのフェラーリF430は、最安でも1300万円だよ!?

言うまでもなく、非常に高い確率で故障すると信じられているからだろう。アキレス腱はシングルクラッチATのデュオセレクトなのだろう、たぶん。しかし、フェラーリF430もシングルクラッチAT。この価格差はナゼ!? 先代クアトロポルテには、何か別の致命的欠陥があるのか?

矢も楯もたまらず、その場でマセラティ専門店『マイクロデポ』の岡本代表に電話した。20年ほど前、車両本体88万円のマセラティ430を買ったお店(名店)である。あれはまさにロマンだった……。

オレ「岡本さん、なぜ先代クアトロポルテってこんなに安いんです!?」

岡本氏「それはまぁ、デュオセレクトが徹底的に嫌われてるからですよウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

オレ「他にも致命的な弱点があるんですか?」

岡本氏「まぁ弱点だらけですけど(爆笑)、最大の要因はデュオセレクトです」

そうなのか! 弱点はデュオセレクトだけなのかっ!!(←ポジティブシンキング)

オレ「岡本さん、総額200万円くらいで探してください!!」

カーマニアとして、こんなロマンを放置するなんてできなかった。

(つづく/毎週金曜日昼頃公開予定)

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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