【詳細データテスト】ポルシェ911 適度なハイブリッド GT3に次ぐ走り 公道ではベストな911

公開 : 2025.03.29 20:25

市販911初のハイブリッドは、特殊なレイアウトのマイルドハイブリッド。重量増加は最低限で、出力とドライバビリティを高め、カレラGTSを独特な立ち位置にしました。公道で使うなら走りと実用性のバランスはベストです。

はじめに

ポルシェ911の世界で、劇的な変化というのはめったに起こらない。穏やかな進化が、常に基礎となってきた。また、設計工学的なレシピを大きく変えることを、ヴァイザッハの開発部門も、ツッフェンハウゼンの経営陣も避けてきた。

今の911は、水冷エンジンで、シングルかツインのターボが主流で、ボディサイズ拡大への対応策として後輪操舵を導入し、GT3には2ペダルも用意する。

テスト車:ポルシェ911カレラGTS
テスト車:ポルシェ911カレラGTS    JACK HARRISON

新機軸は導入されても派手なものではなかったが、ここ10年以上にわたって課題とされてきたのが電動化だ。911も、ハイブリッド化が徐々に進行することは否定しがたい。そうなると危惧されるのが、911本来の元気な走りが損なわれることだ。ただでさえタイトなパッケージングに電気系を追加すれば、重量増加は避けられない。

911GT3Rハイブリッドが登場してから15年が流れた。ドライバーの隣には4万rpmに達するフライホイールジェネレーターが鎮座するこのレースカー、2010年のニュルブルクリンク24時間では、142周止まりで完走扱いにはならなかった。当時われわれはこのマシンを見ながら、911の市販ハイブリッドは、いかに欠点を減らした電動化を行うのか、思いを巡らせたものだ。

その後は、PHEVの918スパイダーや、超複雑な機構を用いたル・マンマシンの919ハイブリッドが登場し、そのノウハウを活かした911ハイブリッドの登場も近いのでは、と期待したのだが、なかなか実現しなかった。もっとも、フラット6を延命させるため中途半端に電動化して、ウェイトが1800kgになった、なんて911は、誰も望まないだろう。

しかし、ついに911の電動化が実現した。それは重量のかさむPHEVではない。今回のカレラGTSに搭載されるシステムは、ターボの頭文字を取ってT-ハイブリッドと呼ばれる。バッテリーは小型で、モーターは2基使用。エミッションを削減しつつ、ターボやGT系以外では望みえなかったパフォーマンスを獲得している。車両重量は1600kg少々だ。

はたしてこのハイブリッドは、シンプルなドライビングの楽しさや、911らしい日常での使いやすさを持ち合わせているのだろうか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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