【詳細データテスト】ポルシェ911 適度なハイブリッド GT3に次ぐ走り 公道ではベストな911

公開 : 2025.03.29 20:25

意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆

これまでポルシェのハイブリッド車は、ライムグリーンのアクセントを用いてきたが、911初のハイブリッドはそうしたディテールを持たない。ポルシェのメッセージは明確。カレラGTSはハイブリッド車である前にまず911である、というわけだ。

ただし、内部は別だ。2024年のフェイスリフトでのデザイン変更はわずかなものだったので、パッと見、新型車だとは気づかないかもしれない。主な改修点は、縦方向のエレメントを加えて幅を強調したバンパーや、エアインテーク拡大のためデイタイムライトを組み込んだヘッドライトくらいだ。

エンジンベイはいつもどおりビジネスライクで、ライバル車ほどエキサイティングな眺めではない。エンジンフードを開けても、排熱ファンしか見えない。カーボンの車名プレートも用意されるが、483ポンド(約9.4万円)もする。
エンジンベイはいつもどおりビジネスライクで、ライバル車ほどエキサイティングな眺めではない。エンジンフードを開けても、排熱ファンしか見えない。カーボンの車名プレートも用意されるが、483ポンド(約9.4万円)もする。    JACK HARRISON

中でもGTSは、エラのような5枚のブレードによって識別しやすいが、それでも変化は小さい。ターボは未発表で、ライフスパンの後半にはGT2RSが登場する可能性もあるが、おそらくどちらもT-ハイブリッドを搭載する。

GTSについては、これまでどおりカブリオレとタルガも選べて、4WDも設定される。しかし、残念ながらMTの用意はない。

エンジンは9A3B6型3.0Lフラット6ターボで、ポルシェに言わせれば完全に開発し直したということになる。これは、新設計ではなく、2015年にカレラをターボ化して以来使っているツインターボユニットに由来することを意味する。

ボアは91.0mmから97.0mmへ、ストロークは76.4mmから81.0mmへ拡大して排気量をアップ。内部パーツとマウントを刷新したほか、よりコンパクトな吸気マニフォールドとシリンダーヘッドを採用し、バルブ周りにはよりダイレクトに動くフィンガーフォロワーを用い、旧エンジンの可変バルブリフト機構であるヴァリオカムプラスを不要とした。クランクシャフトは、カウンターウェイトを軽量化している。

エンジン出力は486psで、システム全体では541ps。ちなみに、以前のGTSは480psだった。400V電気系を採用し、ベルとドライブやスターターモーターが不要になったので、3.0Lツインターボの従来型より大きな3.6Lとしながらも、ユニット長は110mm短くなった。

T-ハイブリッドは、マイルドハイブリッドに近いもので、EV走行は不可。ラピッドサイクルのファルタ製リチウムイオンバッテリーは、8速PDKのケース内とターボのハウジング内に設置したモーターと電力のやり取りを行うが、これは919ハイブリッドのノウハウを活かしたものだ。

従来のツインターボでは1.2バールだった過給圧は、1.8バールに引き上げられた。それでもエンジン単体出力のアップがわずかなのは、ドイツのエミッション規制に適合させるため。全域でパーフェクトな空燃比が求められるため、フルスロットルのトップエンドで燃調をリッチにするようなことができないのだ。

このシステム追加による重量増は50kgとされる。テスト車は、オプションの軽量シートと軽量ガラスを装備し、63Lの満タン状態で1607kgと、公称値の1645kgより軽い実測値となったが、2019年に計測したフェイスリフト前のカレラSより100kg近く重い。当時のテスト車が、後輪操舵やフロントリフト、リアシートを備えた、軽量化を施していない仕様だったにもかかわらずだ。

PHEVフェラーリ296GTBは、これより33kg重かった。アストンマーティン・ヴァンテージは、ハイブリッドシステムを持たないが、さらに上回る。ハイブリッド化されても、このクラスでは911は軽い部類だ。

リアタイヤは以前のカレラGTSよりワイドで、サスペンションは通常より10mmダウン。リアストラットには、ヘルパースプリングを備える。ビルシュタイン製のアダプティブダンパーは、以前より速く動くようになった。後輪操舵は標準装備。PDCCことアクティブスタビライザーは、ハイブリッドシステムからダイレクトに動力を得ることで作動が高速化したが、テスト車には未装着だった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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