ザガートとトゥーリングが「コーチビルド」事業に期待する理由 電動化は心配せず

公開 : 2025.04.02 06:45

新旧の融合:トゥーリング

一方、別のイタリアのコーチビルダーが、レストモッド事業を成功させている。

カロッツェリア・トゥーリング・スーパーレッジェーラは昨年夏、旧型のフェラーリ550マラネロのボディを一新し、新しいエンジン、シャシー、ブレーキ部品を搭載した『ヴェローチェ12(Veloce12)』を発表した。

フェラーリ550マラネロをベースとする『ヴェローチェ12』
フェラーリ550マラネロをベースとする『ヴェローチェ12』

「高級クラシックカーの市場では、購入者の世代交代が起きていると当社は考えています」と、CEOのマルクス・テレンバッハ氏は語る。「1950年代や60年代のクルマは若い世代の購入者にはやや苦戦しており、そこで注目されているのが1990年代のクルマです」

60万ポンド(約1億1000万円)を超えるヴェローチェ12の多くは、米国の顧客に販売された。レストモッドという位置づけは、米国では極めて重要である。なぜなら、もともと米国での販売が承認されていないクルマは、25年が経過するまでは合法的に輸入して無制限に使用することができないからだ。

「当社のコンセプトは、90年代のアナログなクルマのストーリーにぴったり合致しています。また、ドナー車を使用することで、独自の認証を取る必要がなくなります」と、テレンバッハ氏は言う。

30人の購入者のうち、550マラネロをドナー車として自前で用意する人と、カリフォルニアのモントレー・カー・ウィークで実車を見て購入する人は半々である。

「最も若い顧客は30代後半で、トゥーリングの過去の顧客層よりも若い。クラシックなデザインを現代風で新鮮なものにすることで、新しい顧客層に響くのです」とテレンバッハ氏は明かす。

トゥーリングは、大手自動車メーカーがたびたび追いかけ、失敗に終わってきたつかみどころのない市場に参入したようだ。

「OEMのようにブランド価値の一貫性を保つという重荷はありません。大手で確立されたブランドの場合、従来のルールをすべて守り、ブランド認知度を確立しながら、若い購買層にもアピールするのは難しい」

「2年で30台を製造するのは、当社にとっては非常に効率的なプログラムです。これはカーボンファイバー素材のおかげです。手作業でアルミニウムを組み立てるのでは、このようなことはできません」

「当社は、パネル職人を作り上げるワンオフ車や少量生産車が大好きです。そこにこそ当社の真髄がある。わたしはそれを復活させ、真のコーチビルディングとして活性化させたいのです」

「新しい素材に挑戦するよりも、古典的な美しさを再解釈する別の方法を見つける可能性の方が高い。わたし達は科学者ではなく、コーチビルダーです。もし、当社の考えに賛同し、12気筒のフロントエンジン車を製造するOEMが見つかれば、レストモッドではなく、まったく新しいトゥーリングのモデルが誕生するかもしれません」

「今はまだ夢物語かもしれませんが、明日はどうなるかわかりません。その会社と直接的に仕事をしてこそ、新しいプラットフォームにアクセスできるようになるのです」

そのような会社の1つがアルファ・ロメオだ。トゥーリングは同社との歴史的な関係を背景に、台数限定のスーパーカー『33ストラダーレ』の製造契約を獲得した。

「協力し合う形で進める必要があります。メルセデスとAMG、BMWアルピナのような友好的な関係が必要です。その方向性には、間違いなく素晴らしい未来があります」とテレンバッハ氏は言う。

両社は以前にも、8Cコンペティツィオーネのプラットフォームをベースに、本格的なコーチビルドの『ディスコ・ヴォランテ(Disco Volante)』を共同開発している。

「あれはトゥーリングがデザインしたもので、アルファ・ロメオはそれをとても気に入って、自社のバッジを付けたいと依頼してきたのです。ミラノの隣人同士によるストーリーですが、おそらく一般的ではないでしょう」

「しかし、33ストラダーレは、両ブランドからほぼ50/50の割合で参加したチームで製作しています。わたし達の古い友情が復活したのです」

同じくミラノの有名企業であるピニンファリーナとの関係についてはどうだろうか。ヴェローチェ12は、ピニンファリーナの作品をベースに、トゥーリングが線を引き直したものだ。

「オンライン上の一部のコメントには、オリジナルのラインを変えるべきではないという意見もありました」とテレンバッハ氏は認める。「しかし、敵意はありません。お互いの作品に対してプロとしての敬意を持っています」

「モントレーでの夕食会の席で彼らが尋ねたのは、『これは売れるのか?』ということでした」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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