今、最もピュアなスーパーカー、マクラーレンの話【新米編集長コラム#26】
公開 : 2025.04.06 11:45
AUTOCAR JAPAN編集長ヒライによる、新米編集長コラムです。編集部のこと、その時思ったことなどを、わりとストレートに語ります。第26回は、就任以来、取材する機会が多くなってきたマクラーレンがテーマです。
作り手の純粋な思いが強く伝わってくる
マクラーレンがどんなスーパースポーツカーかと聞かれたら、私は、今最もピュアな存在だと答える。作り手の純粋な思いが、どんなライバルたちよりも強く伝わってくるのだ。
マクラーレンの歴史的転換点は、やはり2011年の『MP4-12C』デビューであろう。それまで『マクラーレンF1』という、スーパースポーツ史を代表する1台こそ存在していたが、コンスタントにロードカーを作り続けることになったのは、MP4-12C以降だからだ。

カーボンモノコックのシャシー、リアミドシップにマウントされた3.8L V型8気筒ツインターボ。クルマの成り立ち自体はこの分野においてオーソドックスだったが、当時試乗して驚愕したのを覚えている。それは、恐ろしいほどに速かったこと、そして望外に乗り心地がよかったことだ。
ターボがもたらす加速は自然吸気エンジンと違い、時に自分の体が、予測しているよりも車体が先にある印象をもたらす。その位置関係がMP4-12Cの場合、かなりの距離感だったのだ。しかも加速は淀みがないうえにシャシーは強固だから、恐ろしいとは書いたものの、恐怖は感じなかった。
そして足まわりである。以前、とあるレースエンジニアが作るショックアブソーバーの取材をした際に、本当によくできたレーシングカーの足まわりは、実は乗り心地がいいことを教えてもらったことがある。それまで愛車のサスペンションセッティングで悩んでいた筆者は、目から鱗であった。ショックもバネも硬くてナンボ、街中の乗り心地は気合で捨てよ! というのが念頭にあったからだ。
しかし、MP4-12Cはまさによくできたレーシングカーのような足まわりを有しているようで、なるほど、「マクラーレンはこういうクルマを作りたいのか!」とコクピットで納得したのである。
「うわぁぁ……エイリアンみたいだ……」
そんなマクラーレンであるが、初期モデルは物足りない部分もあった。それはスタイリングやコクピットのデザインが、オーソドックスすぎたことだ。純粋さという意味では、今見るとプレーンな雰囲気もあり悪くないのだが、ライバルたちに比べて刺激が少なかった。
それが明らかに変わったのは、2013年の『マクラーレンP1』であろう。当時、日本に上陸したオーナーカーを取材した際、P1が日本の公道を走る姿を見て、特にリアビューの異形感が半端ないと思ったのが忘れられない。誤解を恐れずに正直な気持ちを回想するならば、「うわぁぁ……エイリアンみたいだ……」というものであった。

その後のモデルはP1のイメージをうまく取り込み、マクラーレンのデザインを確立するきっかけになったと思う。そして同時に進化したと感じた部分があった。技術的な話はもちろんだが、日常領域での演出、もう少しわかりやすく書けば『エブリデイ・スーパーカー感』だ。
それを強く感じたのは、現在発売されている『750S』のひとつ前、『720S』を取材した時だった。コクピットから見える景色の見せ方、エンジンサウンドやロードインフォメーションの伝わり方など、今、自分がスーパーカー(スーパースポーツカー)に乗っているという喜びが、街中でも以前より強く感じられたのである。
これは大事なことだ。公道でハイパフォーマンスを発揮することが、以前にも増して企業という立場では推奨できなくなっている。だから自社でサーキットイベントを開催するわけだが、『パフォーマンスを発揮しない日常』でも楽しめる要素がないと、オーナーは飽きてしまう。もちろん『使わない贅沢』とも言えるが、やはり『日常における非日常』は必要だ。
どこまで意識したのかは開発者に聞いたことがないのでわからないが、少なくともそういった演出に大きな進化を感じたのは確かなのであった。
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