【第7回】サイトウサトシのタイヤノハナシ~ハイドロプレーニングのハナシ~

公開 : 2025.04.16 17:05

タイヤが大好物のサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなく披露するこのブログ。第7回は、梅雨時やゲリラ豪雨時に気をつけたいハイドロプレーニング。甘くみると大スピンするかも、という話です。

ウェットブレーキで7回転半スピンした話

昔は、さまざまな自動車雑誌が独自に日本自動車研究所(通称:谷田部〈ヤタベ〉)のテストコースを借りて、加速や最高速などのテストを頻繁に行っていました。

テストコースは、日中は自動車メーカーやバイクメーカーが占有しているので、自動車雑誌のテストはたいてい早朝か深夜でした。『谷田部5時―7時』といえば、早朝5時から7時までコースを占有という意味で、その時間にテストや計測をするわけです。ちなみに5時―7時だと4時30分からコースに入れ、7時30分までに撤収というのが通例で、実質3時間近く使うことができました。

最高速テストのような速度域でウェット路面に飛び込むと、あっさりコントロールが失われる。ハイドロプレーニングによるものだ。
最高速テストのような速度域でウェット路面に飛び込むと、あっさりコントロールが失われる。ハイドロプレーニングによるものだ。    斎藤聡

よく使っていたのはバンクのある高速周回路と、総合試験路と呼ばれる長さ約1km、幅30mくらいの平坦なコース。総合試験路には1kmの直線路に続けて、200mほどのブレーキ路がありました。

その日はなぜかブレーキ路が水で濡れていたのです。そこに180km/hで飛び込んで7回転半の大スピンをやらかしたのが、サイトウの最初のハイドロプレーニング体験でした。

ブレーキコース手前でブレーキをかけ始めているのですが、ABSもなかったころ。グリップのいい路面にフロントの左右どちらか1輪が乗ったらしく、いきなり車の向きがスーッと変わったと思ったら、そのままスピン。

「これはやっちまったなあ……」とクラッシュを覚悟していたのですが、運のいいことに引っかかるものがなく、スピンの方向は慣性の法則どおり。走ってきた方向の延長線上を真っ直ぐコマのようにスピンしながら進んでいったのでした。あまりきれいにスピンするものだから、面白くなってスピンの回数を数えていたら7回転半だったという……。

こんな極端な体験はあまりないかもしれませんが、かなり多くの読者の方がハイドロプレーニングでドキッとした体験はあるのではないでしょうか。雨の高速道路を走っていて、いきなりステアリングが軽くなって、抵抗がなくなったようにツツーッと滑っていくアレ。アクアプレーニングも同じ現象です。

キモはタイヤ溝の深さと路面の水深

ハイドロプレーニングは、路面とタイヤの間に水の層ができ、タイヤが路面から浮いてしまうことで起こります。タイヤが路面から浮くにはある程度の速度が必要なので、高速道路や自動車専用道路で体験することが多いのはそのためです。

では、いったい何km/h出すとハイドロプレーニングが起こるのでしょうか。これについてはNASAが面白い公式を発表しています。

タイヤの溝が浅くなると、排水性能が低下するので、水の膜により接地が失われやすくなる。
タイヤの溝が浅くなると、排水性能が低下するので、水の膜により接地が失われやすくなる。    斎藤聡

『V=63√P』というものです。Vが速度、Pが空気圧です。

空気圧が2.0kg/cm2の場合だとハイドロプレーニングが起きる車速は63√2≒89km/h、空気圧が3.0kg/cm2なら≒109km/hとなります。

ちなみにこれには前提条件があって、水深がタイヤの溝よりも深い場合となっています。乗用車用タイヤ溝は新品でおよそ8~10mmと思っていてください。ですから新しいタイヤでも、水深が8~10mmくらいになると簡単にハイドロプレーニングが起きてしまうということになります。

もっとも水深10mmというのは相当な大雨で、雨の状況でいうと、夕立などでときどき前が見えなくなるほど激しい雨と考えていいと思います。ただし、タイヤが摩耗して溝が浅くなって、残溝4mmとか3mmになると、それほど激しい雨でなくても、ちょっと水はけの悪い路面だとその程度の水深になってしまいます。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    斎藤聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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