アウディTT S vs BMW M235i vs ポルシェ・ケイマン
公開 : 2015.04.06 23:50 更新 : 2017.05.29 19:32
これに合わせてとも言うべきか、ステアリングは軽く、同時にゲインも明らかに高い。ギア・レバーの操作感も軽くなっており、クラッチもさほどの踏力を必要としない。ギア・レシオも ’あえて’ ショートになっている。
ハード・コーナリングを試みれば、まず最初に感心するのはグリップ・レベルの高さだ。サスペンションの硬質さに対して初期ロールは大きめの印象だが、目標とするラインのトレースは驚くほど簡単だ。
意図してブレーキングを引きずりながらコーナーにさしかかり、そこでスロットルを閉じればスッと鼻先をエイペックスに向けることが可能。所作は極めて従順であり、得たいだけのパワーを引きだすことも簡単だ。
ゴルフRと共通の4WDを使用することで、コーナリング時に前輪が慌てふためくこともなく、スロットル・オン・スタビリティも抜群である。一見、相反するように思える安定性と敏捷性を見事に両立している印象だ。
ではM235i自慢のハンドリングはどうか? 味わいとコミュニケーションの観点においてはM235iの勝利である。ただし、コントロール性の高さやステアリングの正確性、予想のしやすさはTT Sの方が優れている。
エンジン単体で見ると、M235iの方がうえ。7割程度のペースで走らせた際の走りやすさもM235iが優る。バンプのいなしや、なめらかさ、伝えてくれる情報の緻密さが勝因である。
ただしTTのそれよりも柔らかめのセッティングゆえ、急激に路面状況が変わると、ボディの上下移動が著しくなる。これに伴いリア・アクスルも顎を出しやすく、グリップが途端に失われることも少なくない。
よって高速でコーナーを脱出したい場合、ボディが落ち着くのを待ってからリア・ホイールに動力を与える必要がある。これに慣れさえすればBMWらしい身のこなしが可能になるのだが……。要するに腕が問われるのだ。
この点を含めてコーナリングを楽しめる、という向きにはM235iを推す。TT Sも負けてはいないが、ドライビングに対して飽くなき探究心があるドライバーにとっては、M235iとじっくり向き合う方が楽しいはずだ。
TT Sの競争力も非常に高いが、比較的イージーな領域で存分に楽しみたい向きに最適なキャラクターである。ドライバーに対するアシストも豊富であるゆえ、リラックスして楽しむことが可能だ。
ケイマンに関しては、AUTOCARの熱心な読者にとってはいまさら説明をする必要がないかもしれないが、バランス、パワー、トルク、ロール剛性の全てにおいてとても高いレベルにある。
イニシャル・レスポンスは鋭いし、コーナリング・バランスもため息がでるほど完璧である。6気筒の奏でる乾いたサウンドも下は1500rpmから上はレブ・リミットまで、思わず聴き入ってしまう。
TTやM235iも、部分的には優っているところはあるが、トータル・バランスはケイマンの圧勝。’スイート’ という言葉は、このクルマのためにあるのだと改めて思った。