フォルクスワーゲン・ゴルフ・ブルーモーションTSI
公開 : 2015.06.03 23:30 更新 : 2017.05.29 18:57
さらにフォルクスワーゲンは ‘バランス’ も見逃さなかった。3気筒4ストローク・エンジンといえば、コトコト音に代表される内在的なバランスの欠落と切っても切れない関係にあった。
したがって一般的にはクランクシャフトによって動かされるバランサー・シャフトが取り付けられるのだが、フォルクスワーゲンのエンジニアはこれを簡単には採用しなかった。
そこでフォルクスワーゲンがヒントを得たのは80年代の大型5気筒エンジンからだった。このユニットは、敢えてアンバランスなフライホイールとクランクシャフト・プーリーを使用していたのだ。
注意深く計算されたアンバランスなコンポーネンツは、それぞれがクランクシャフトを基準に対になるようにマウントされ、ほぼノー・コストで内部の不均衡を打ち消していたのだ。
エンジンの総重量は89kg。ゴルフ7がローンチされた時に組み合わされていた1.2ℓ 4気筒TSIエンジンに比べると10kgもの軽量化に成功している。
シャシーは従来よりも15mm低くなっており、ラジエターは、アンダーフロア・パネルへと向かうエアフローをなめらかなものにするための展開式のフラップの背後に移設された。
また、抵抗の小さいタイヤや新しいスポイラーを組み合わせるのもこのモデルの特徴である。その結果Cd値(空気抵抗係数)は0.29→0.28へと変更済みだ。
■どんな感じ?
走りはつるりとなめらか。落ち着き払っていながら、おどろくほどハツラツとしている。
モダンなディーゼル・エンジンに比べると、あっと驚くほどの力強さはないし、ミドル・レンジの推進力も一歩劣るが、幅広い回転域における洗練性や活気のよさは、心から驚くレベルにある。
エンジンをかけた直後でも極めて静かなアイドリングに徹しているうえ、アイドリング・ストップのマナーもディーゼルに比べるととても穏やかだ。というか、エンジンのON/OFFがいつ切り替わったか分からないほど。ステアリングの重みが変わって初めて、エンジンが切れたことに気づかされる、といった感じである。
高速道路のスピードでも、エンジンの音は聞こえず。サイド・ウインドウやミラーが起因のウインド・ノイズの方がかえって目立つくらいだ。
6速マニュアルのシフト・アクションもかちりと適確。特に6速にシフトする時がややロング・スローではあるが、シフト・ノブに与えられた重みも実にしっくりとくる。
途中酷い路面に出くわしたが、シャシーは一度たりとも音を上げることはなく、心地よいボディ・ロールとともに常にバランスを保ちながら前へ進んでいった。
もし私がビジネス・ユーザーならば、このクルマは完全に私の心を掴んで離さなかったはずだ。なにも技術的な面だけでなく、インテリアの質感や幅広く快適なシート、たっぷりと用意された小物入れなどが、そう考えさせてくれる理由だ。
第一級のコックピットであるといっても、まったくもって大げさ表現ではない。
唯一の欠点といえば、優秀すぎるゆえ、確固たるアイデンティティを確立するほどのユニークなキャラクターを持ち合わせていない点くらいのものだろうか。