メルセデス-AMG C63
公開 : 2015.07.07 23:50 更新 : 2021.01.30 21:38
■パフォーマンス
“ストップウォッチが示す数字は、M4にわずかに届いていない。強大なトルクのおかげで発進時に足元をすくわれることが最大の理由だ” ― マット・ソーンダース (ロードテスト編集補佐)
AMG製のM177型4.0ℓ V8エンジンは、極めて優れた ‘作品’ だといえる。ドラマティックなサウンド、歯切れのよいレスポンス、低回転域の力強さ。7000rpmまで突き抜けるように回るのもいい。
C63ブラック・シリーズが搭載していたM156型V8ユニットにも、鮮烈な思い出があるが、それに負けないほどの完成度である。
同じくらい感動したのは(信じてくれるかわからないが)ギアボックスだ。徹底的に改良されたマルチクラッチ・スピードシフトは、ようやく思ったとおりの変速をしてくれるようになった。
スポーツ+を選び、パドル・シフトを弾くと、BMW M4に負けないくらいの素早い変速を行ってくれる。コンフォート・モードを選んだ際の、とろけるようななめらかな変速も一度味わう価値がある。これまではあまりAMGのトランスミッションに唸らせることはなかったが、ハードコアなドライバーをも満足させられるよう、徹底的なテコ入れが行われたことが伺える。
ユーザビリティは、このクルマにとって、とても重要だ。なぜならC63のオーナーのなかには、毎日の足として使用する人も少なくないからだ。そんな向きは、8.9km/ℓという燃費に腹を立てることはないが、ロード・ノイズやシャシーの発する騒音にはかなりシビアだ。
しかし期待に反して、日常的な使用領域では昨年乗ったBMW M4には一歩及んでないというのが、筆者の見解だ。特に静止加速時のトラクションの不足は無視できない。
ただ、これはもしかすると、C63 Sを買えという ‘お告げ’ なのかもしれない。Sならば、大径ホイールゆえの、地面にまとわりつくようなトラクションを得られるのだから。
■乗り心地とハンドリング
“高速コーナーでは安定感があり車体とのコミュニケーションもしやすいゆえ、挙動の微調整がしやすかった一方、常に重さがつきまとい、なおかつ前輪を落ち着かせることが難しかった” ― マット・プライヤー (ロードテストエディター)
はっきりと言わせていただく。C63の乗り味は硬い。足廻りの設計のすべてをAMGが受けもっていることから、これは故意的である。
ただ、一貫性があり、車体とのコミュニケーションをしやすい。微舵に対する反応もすこぶる良い。その功罪ともいえるのが、乗り心地の粗悪さなのだ。キャッツアイを踏んでしまった暁には、車体がポンポンと跳ねまわってしまう。
ミラ・サーキットを走らせたところ、BMW M4ほどのクリップ力はないうえ、M4と並ぶようなタイムは出なかったが、適度な重みのあるステアリングがたっぷりとした情報を伝えてくれるため、コントロールはとてもしやすかった。
ダイムラー製のスタビリティ・コントロール・システムをカットすれば、スロットル操作ひとつで嬉々としてボディは向きを変えたがる。危うさは微塵もなく、どのような速度域でも極めてコントロールしやすいと感じた。
しかしながら19インチのミシュラン・パイロット・スーパースポーツを履くBMW M4に比べると、コンチネンタルの18インチのタイヤを履くC63が同等のタイムを出すのは難しい。まず最初にフロント・タイヤがグリップを失うのも気になるところであり、おかげで時に不安になることもあった。