マツダ、世界初の車体制御を発表 (試乗レポート)

2016.05.02

マツダが、走りの質を高める “世界初” の技術を公開した。

G-ベクタリング・コントロール。それは新発想の車体制御である。

四輪の接地感が、まるっきり変わる


G-ベクタリング・コントロール(以下、GVC)は、
1. ドライバーがステアリングを切り始めた瞬間、クルマを前荷重にする
2. 舵角が一定になったら荷重を後輪へ移す

というもの。

つまり、ステアリング操作に応じて、四輪の接地荷重を最適化する制御である。

作動メカニズムはいたってシンプルだ。ステアリング操作が行われたら、エンジンの駆動トルクをわずかに(ごくわずかに)弱め、前輪へ荷重を移す。これにより前タイヤのグリップを高め、車両の応答性を向上。

その後、ハンドルが一定蛇角に保持されたら、トルクを復元し後輪へ荷重移動。今度は車両を安定させるという流れだ。

一連の荷重移動によって、前後輪のグリップを引き出し、意のままに操るドライビングを実現するという。

この制御には、おおきく分けて3つの新発想がある。
・従来、パワートレインとシャシーは個別の制御だったが、GVCではエンジンとステアリングをコンピュータで完全につなぐ。
・ソフトウェアのみで完結する機能のため、重量増を伴わない。
・その効果が、ドライバーだけでなく乗員全員で得られる(後半で報告)。

さて、能書きはこのくらいにして、実際の試乗を報告したい。会場は自動車テストの専用路。今回だけ特別に、ボタン操作で当機能をオン・オフする仕掛けが組まれた。試乗車はアクセラ、アテンザのFFである。

80km/hで直線路

上のイメージ図を見ると、効果はコーナリング中に限られると思うかもしれない。しかし、試乗したジャーナリストの多くが直線での効果に驚いた。

直線:GVCオフ
GVCオフは、高速道路を走行しているのと変わらない。路面にわずかな起伏があると、ドライバーは直進を維持すべくステアリングに添えた手を無意識に強く握る。

直線:GVCオン
同じ場所をGVCオンで走ると、路面の起伏にクルマが乱されず直っすぐ進んでいく。車体のふらつきがないので、ステアリングを握る手や腕がリラックスしていられる。

オフとオンの違いは大げさに言うと、波のある海で蹴伸びするのと、プールで蹴伸びするくらいの差がある。プールで蹴伸びすると身体が水面を滑走する。ところが海だとそうはいかない。蹴ったあと、どんぶらこ、どんぶらこと漂流する。

こういうことらしい。直進を維持しようとステアリングを支えた瞬間、GVCがエンジンを制御し前荷重を与える。というのも操舵のセンシングは、1秒間に最小4°の操舵でも感知するという高感度(マツダはステアリング部に操舵センサーを設けず、コラムのモーター部で減速機構を介した動きを読む)。支えるだけでもセンサーは反応し、エンジンのトルクを絞る。

これにより前荷重が発生するので、直進を保持する力が前輪にうまく伝わり、真っ直ぐ進行する。その際のエンジンのトルク変動は絶妙で、今回の条件だと減速Gはたったの0.01G。これは到底人間が感知できないレベルだから、不自然なピッチングを感じることはない。起伏を超えると、今度は荷重を後輪に移し、安定走行。

ドライバーは、クルマの直進性が増したと感じ、他の乗員は外乱に乱されない=乗り心地がよくなった、とだけ感じる。素晴らしい。

50km/hで車線変更

次のテストは、パイロンで両脇を囲われた通路を50km/hで走行。途中、クランクがあるので、車速を維持したままそこを駆け抜ける。中速域での急な車線変更のイメージだ。

車線変更:GVCオフ
車速50km/hで直進。速度を落とさず、ハンドルを左、右と切ってクランクを抜け、隣の車線へ。同乗したマツダの走行・環境性能開発部 井上エンジニアが「いま、ラインを探しましたね」とニタリ。たしかに、クランクに鼻先をつっこむ時、切り足し・切り戻しをして探った。その迷いが同乗者にも伝わったのだ。

車線変更:GVCオン
同じ場所、同じ速度、同じラインで挑戦する。今度はクランク進入時、迷わず操舵角がパシッと決まり、見事に抜けていった。

つまり、クランクを縫うためにハンドルを切り始めると、瞬時にトルクが絞られ前輪に荷重が移る。ステアリングの応答性が高まるので、操舵がピタリと決まったのだ。オフ時と比較して、前輪の接地感もひと回り高い。

この間、Gの増減制御は感じない。乗り手からすると、突然 “オンザレールの技術” が身についた気分だ。

キモはやっぱりあの技術

以上の報告では「瞬間」「瞬時」という言葉が何度も出てきたが、これが大きなキモである。SKYACTIVのパワートレインというのは、その瞬間その瞬間に必要な制御を行える。エンジンのコントロールにタイムラグがなく、ロックアップ率の高いATなので駆動輪へ確実にそれを伝える。

今回のG-ベクタリング・コントロールは、瞬時の制御ができるSKYACTIV世代だからこそ実現したという。開発陣が、試しにSKYACTIV以前の車両で試したところ、「やらない方がずっとマシ」とのこと。

一般的にトルク・ベクタリングというと、ヨーだけを発生させることに陥りがちだ。しかしそれは、マツダの考えでは「自動車を無理やり曲げちゃう介入」ということになる。今回発表になったGVCは、人間の意図を優先し、タイヤの能力を引き出す発想なのがマツダらしい。

GVCで運転していると、視線が下がらずに、先を向くのは、運転に余裕が生まれるからだろう。これは誰もが体感できる点だ。市販はまだ先の技術というが、今すぐ私のマイカーに適用したいと思った。


▶ カーレビュー / ドライバーズカー選手権 マツダMX-5 vs AMG C63 S vs エヴォーラ400

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