text & photo:Kunio Okadad (岡田邦雄)
SHCCは、湘南ヒストリックカー・クラブの略称である。その名称が表すとおり、東海道のほとり、東京からほどよい距離の太平洋に面した湘南を拠点とするクラブである。かつては新婚時代の白洲次郎と正子が住んでランチア・ラムダを乗り回して丸の内や銀座に通い、戦後も吉田 茂が住まいを構えてロールス・ロイスで霞ヶ関や赤坂に通った。そんな日本の郷紳に好まれる風土であった。
さらに湘南にはもうひとつの顔がある。それは戦後の若者風俗の先端の場所でもあったということだ。加山雄三からグループサウンズ、そしてサザンまで、ヨット、サーフィン、プール、スポーツカー、ウクレレからエレキまで・・・。’80年代が渋谷を中心とした西武/セゾン文化の時代とするなら、’60年代は大磯プリンスを中心とする、もうひとつの(もともと源流の)西武/プリンス文化の時代だろう。
SHCCはそんな文化的、時代的な背景をそこはかとなく感じさせるクラブである。だから、彼らが主催するイベントには独特の磁力があり、日本でもとくに濃い愛好家たちが集まってくる。近頃は、ヒストリックカーのイベントもファッションとなってしまっているが、ここでは、そんな半可通は相手にされないだろう。
だいたいの参加者が昔とった杵柄で、若い頃から20年、30年と、クルマ趣味を続けている強者ぞろいだ。その象徴的存在が御年88歳の太田 ?さんである。伝統あるCCCJ(日本クラシックカークラブ)の一桁会員であるが、マカオ・グランプリの覇者でもあり、今回も自身の年齢より5歳も若い1933年型のMGに乗って好タイムを叩きだした。
また、日本人で最初に、F1、カンナム、フォーミュラA、ル・マン24時間に出場した国際的レーサーの鮒子田 寛さんや、欧州のレースで活躍しウィリアムズF1にまで乗った桑島正美さん、ル・マン24時間レースなどでロータリー・エンジン搭載のレーシングカーで大活躍された従野孝司さんなど、日本のレース界のレジェンドたちも、さりげなく遊びに来ていた。
また芸能人でも、若い頃からの筋金入りのエンスージァストである横山 剣さんもロータス・エランで走ったが、やはり腕は達者だった。また、参加者を優しく見守るのはシンガーソング・ライターの今井優子さん(ゆうこりん)で、彼女のおかげでパドックの空気も華やいでいた。
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シックな色合いのロータス・エランには横山 剣さんが乗った。路面はウェットだったが、ハンドルさばきもアクセル・ワークも完璧で、リズムにのって歌うようにスムーズで綺麗なラインを描いて走った。
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横山さんは子供の頃からのクルマ好きで、男性ファッション誌にはこれまで愛したクルマの遍歴なども連載している。今回は横山さんがとりわけこだわりを持つベレット1600GTも会場に姿を見せていた。
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横山さんは日本で最も速い男と呼ばれ、「黒いイナズマ」と畏怖された桑島正美さんといっしょに大磯に現れた。聞けば、クールスのバンドマンだった頃から桑島さんとは遊び友達だったそうだから、古い仲である。
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Bクラスは小排気量の改造車クラス。2ストのスズキ・フロンテ・クーペが血を沸かせるエグゾースト・ノートと敏捷な走りで1位と思われたが、このフィアット・アバルト1000TCが思わぬ伏兵でクラス優勝を奪取した。
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A クラスはノーマルの小排気量車。フィアット500にゼッケンがふたつ貼ってあるのは、同じクルマで違うドライバーが走るダブル・エントリーもOK。同じクルマで競いあうのも、それはそれで遊び方のひとつだ。
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フィアット600をベースにして最初に生まれたアバルトが750デリヴァジオーネで、ミッレ・ミリアではクラス優勝を遂げた。600をベースにして多種多様なアバルトが生み出されたことから、その素性の良さを証明している。
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アルピーヌA110は美しいコンディションの2台が参加した。かつてはリヤ・エンジンも多かった。独のポルシェ、伊のアバルト、日本の日野コンテッサとともに、熱烈な信奉者から崇められるカルトカー。
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強豪揃いなのがDクラス。トップを争う連中は雨中でも1分を切るタイムで攻めてきた。常連の佐々木氏は、手塩にかけた愛車アバルト124ラリーを駆って各地のスピード・イベントで活躍するベテランで、今回は3位だった。
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一見おとなしいセダンだが、実は内に秘めたる性能が凄いのが、アルファ・ロメオ・ジュリアTI。ドライバーも一見するとおとなしい紳士だが、弾けると凄い人のようで(特に夜!)、今回もDクラス2位を獲得した。
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Rクラスはケータハム・スーバ−7が主流だが、こんなバックヤード・スペシャルも参加するところが面白い。クーパ−500のスタイルばかりかスピリットまで受け継いだリトル・フォーミュラーのサラマンダー。
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アルピーヌ第1人者の加藤 仁さん。今年のル・マン・クラシックにもM64で出走し、大人のミニカーレースのK4-GPでもアルピーヌ・レプリカを製作して参戦するほど。今回は1964年型アルピーヌ A270 F-2で参加。
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サラマンダーは本家クーパ−500がJAPのエンジンをミッドに搭載したように、カワサキGPZ1100の4気筒エンジンをミッドに横置きで搭載し、チェーンで後輪を駆動させるフォーミュラー・マシンだ。
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シトロエン2CVは決して速くはないけれど、その走る姿はやんやの喝采を浴びる。コーナリング時に強い足腰がしっかり踏ん張って、4輪とも路面から決して離れないのに、ボディだけは派手にロールするからだろうか。
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競技用のクルマは中身がしっかりしていれば、ボロくても男っぽい無頓着な魅力がある。しかし、このオースチン・ヒーレー・スプライトMk-1のように綺麗に仕上げられたクルマを見ると、細やかな愛情が感じられる。
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‘60年代までは何故にリヤ・エンジン車がこうも多いのだろう。ルノ−8よりも先に四角いボディで登場したシムカ1000のファミリーもまた、ツーリングカー・レースやラリーで大活躍した羊の皮を被った狼たちの一匹だ。