スバル、自社ドライバー育成プログラムを初公開
2016.08.08
運転がうまい人、走らせると一番速い人。普通のドライバーとそうした人たちの違いをひと言で説明するのは難しいが、その差を生むのが努力であることは間違いない。
スバルが報道向けに初公開した自社ドライバーの育成システム、スバル・ドライビング・アカデミーの現場でそれを確信した。
スバル・ドライビング・アカデミーとは
他の自動車メーカーにはない特徴であるが、スバルでは計測だけを担当する計測員やテストドライバーという専門職が存在しない。その代わりにエンジニア、つまり技術者が自分で開発車両のテストドライブを務める。
何がドライバーにとっての安心で、何がドライビングの楽しみなのか、クルマ作りに携わるエンジニアたるもの、走って走って走り込んで考えろ、というのだ。これまで、こうした人作りは個々人の自主的な活動(草レース参戦など)に頼っていたが、2015年9月からスバルとしての取組みを再構築。スバル・ドライビング・アカデミーを開校する運びとなった。
アカデミーの受講生は、操縦安定性の担当部署だけでなく、設計部門や車体制御のエンジニアまでも含んだ技術本部3000名のなかから上長が人選する。初級、中級、高速、特殊の4段階のライセンス区分が用意されており、その活動内容は月1回のアカデミー出席と “自主練” だ。
今回取材できたのは、特殊ライセンスを目指す高速ライセンスのアカデミー生、特殊を持っていてさらにレベルアップしたいメンバー、計20名の走行訓練である。車両は、WRX STIおよびBRZの生産車にロールゲージなどの安全対策を施したもの。ひとりの受講生に1台の車両が割り当てられるが、メンテナンスの責任も自身で負うことになる。
高速走行プログラムでは、オーバルのテストコースを時速200km/hを維持し、基準タイムで周回することが求められる。高速域のバンク進入・脱出は車体が不安定になるだけでなく、オーバル自体が高低差9mという上り下りのあるレイアウトなので、アクセルワークが実に繊細だ。
ジムカーナのタイム計測では、緩急つけた車体コントロールが求められる。設定タイムを下回るためには、ドリフトやスピンターンという技術を身につけなくてはならない。受講生たちは「死ぬほど走っている」というだけあって、講師として招いた国際的レーサーが記録したタイムを、数ヶ月の特訓でアカデミー生が更新した例もある。
ほかにもウェット旋回プログラムでは、散水した低μ路を一定のRを維持して円旋回する。アカデミー生はこれをドリフトしたまま延々と周り続けるが、円の半分は低μエリア、残り半分は極低μエリアになっており、それを予測したコントロールが必要だ。走行体験をしてみたが、後輪が滑りだすとアイススケートの決め技のようにその場でくるくる回ってしまう。それでもうまく周回したいという気持ちが湧いてくるのがアカデミーの醍醐味なのだろう。
カリキュラムにはこうした走行訓練だけでなく、心技体レクチャーといったマインド・プログラムも含まれている。今回の20名を選んだ基準にも「日常業務で部下の指導役を務めている」という項目が入っていたから興味深い。
休日に自主練する受講生、「自分は計測器」と語る指導役。厳しいなかにも楽しさがあるアカデミーは開校から1年目を迎える。先日発表されたBRZのマイナーチェンジ・モデルには、ここで身につけたスキルが開発に好影響をもたらしたという。秋に発売されるあのクルマが楽しみだ。