ジャパン・クラシック・ツアー2016
2016.09.16〜19
愛知県を拠点とする、ヒストリックカーミーティング実行委員会主催のラリー・イベントは、開催期間の長短によって以下の3つに分けられる。
1、名古屋クラシックツアー (1 Day)
2、ヒストリックカーミーティング (2 Day)
3、ジャパンクラシックツアー (3 Day)
9月17日(土)〜19日(月)と、シルバー・ウィークを利用して開催された今回のイベントは、3のジャパンクラシックツアー。ヒストリックカーミーティング実行委員会が手掛けたイベントの13回目にあたり、今回は愛知県名古屋市を起点とし、8県を跨ぐ、総行程距離が706kmに及ぶロング・ツーリングとなった。
大会を率いる天野正治氏が指針とする「とにかく、参加者に喜んでもらう」という一言が示すとおり、ヒストリックカーミーティング実行委員会のイベントは緩急をつけた ―天野氏の言葉を借りると、泥臭さと優雅さの融合― エンターテインメントの要素が盛りだくさんであることが特長で、通過するポイントでは、それぞれの地域にしかない特産品や名所、文化に触れられる機会が散りばめられている。筆者は取材班という立場だけでなく、エントラントとして今回のイベントを体験した。以下で、3日間過ごすことができた濃密な時間を共有できれば幸いである。
1日目、スタート地点の愛知県名古屋市役所では、名古屋市長の激励の後、市長みずからが振るスタート・フラッグで、合計45台の参加車両がそれぞれ指定されたスタート時間にて出発した。高低差は1260m、全長は17kmの壮大な伊吹山ドライブウェイを堪能し、頂上にてPC(決められた区間を決められた時間で正確に走る)競技が行われた。競技は真剣そのものだが、傍らで「アルプホルンなごや」のアルプホルン演奏が行われるのがこのイベントらしい。
長浜 北ビワコホテルグラツィエのレストランにてカツレツに舌鼓を打ったあと、CO(決められた時間ぴったりを目指して出発する)競技を済ませ、琵琶湖の北側に位置する余呉湖のほとりのスペースで行われるPC競技を。その後は北陸道を160kmひた走り、千里浜なぎさドライブウェイに向かった。
千里浜なぎさドライブウェイは日本で唯一海岸線(波がぎりぎりまで打ち寄せてくる)を走れる公道だ。中には果敢にも水しぶきをあげながら走るエントラントも。ツーリングに参加していたバイカーとの交流も楽しかった。海辺のスタンプ・ポイントでチェックを受けた後、さらに40km北に向かい到着した和倉温泉 ‘日本の宿 のと楽’ が、この日の行程が終わり……ではない。この日一番の難関、5連続(しかもヘアピン・カーブを含む)のPC競技が待ち構えていた。「ひゃっひゃっひゃ」という主催者の天野氏の高らかな笑い声が聞こえてきそうだ。
夜、ウェルカム・パーティは、富山を拠点とするビッグ・バンド、‘リバー・サウンズ・ジャズ・オーケストラ’ の音楽とともに幕を開け、その後は氷見市まちづくり推進部 観光交流・若者と女性の夢応援課 課長の岡田基義氏や、和倉温泉旅館協同組合 理事長 谷﨑裕氏の挨拶が終わると、このイベントではお馴染みになりつつある、いずはら玲子氏の ‘能登はいらんかいね’ 歌謡ショーとなった。
エントラント同士の会話も程よく温まったところで、室内の照明が急に落ち、ステージにスポットライトが当たった。浮かび上がるように姿を表したのは、一張の太鼓と仮面を被った男達。400年前、つまり戦国時代を起源とする御陣乗(ごじんじょう)太鼓と呼ばれるもので、かつて、武器を持たぬ村人達が上杉勢を退散させるために生みだしたものだという。独特のリズムと叫び声、激しい体の動きは、ある種の狂気を感じさせる。クライマックスが近づく頃には、奇遇にも大雨が窓ガラスを叩きつけ、愉快に語らい合っていたエントラントも、呼吸を忘れるかのように釘付けになっていた。
その後、間髪いれずに ‘スタジオ・バハラ’ のベリー・ダンス・チームがステージに登壇。打って変わって艶やかなダンスも徐々にヒートアップし、エントラントを巻きこんでいく。次第に会場の熱気も最高潮に。全員で手を繋ぎ、踊り明かした。もちろんアンコールの拍手も長い間、鳴り続けた。何度味わってもやめられない。
2日目。この日も雨が激しく降り続いたが、日頃から手入れの行き届いているクラシックスはまるで悲鳴をあげない。昼食会場の ‘氷見 ひみ番屋街’ と呼ばれる氷見漁港の場外市場では、芝生の上にクルマを置いた瞬間に奇跡的に雨が止み、待ち構えていた地元の方々が押し寄せ、好き好きに写真を撮っていた。地元の自動車愛好家も同じスペースにクルマを並べることができ、参加者と意気投合していた。日本中から集まったエントラントと地元の人々が結びつく機会が多いのもこのイベントならでは。参加者とゲストの両方を配慮した好例だと言えよう。
‘きときと(=富山の方言で新鮮の意)丼’ を味わったあと、一行は120km離れたフォッサマグナ・ミュージアムにて地理や歴史を勉強。愛車を走らせるこの道が、どのように生成されたかを知ることができるのも、なかなかない機会だ。隣接された特別会場でPC競技を終え、‘白馬 樅の木ホテル’ までひとっ走り。ティー・タイムを楽しんだ。さすがの雨で体が冷え切っていたエントラントは、温かいコーヒーや紅茶、甘いスイーツにほっとした表情を浮かべていた。
2日目の行程はさらに60km近く続いた。宿は ‘ホテル アンビエント安曇野’。“北アルプスに抱かれた山岳リゾート” というコピーが示すとおり、常念岳を望む中腹に位置し、宿から望む景色は絶景。「あぁ、最高」。温泉に浸かるエントラントは口々に呟いていた。
夜は1日目とは一転、しっとりとしたレストラン・ディナーとなった。前日に続き、歌手のいずはら玲子氏のショーに加え、山﨑ひろみトリオのJazz生演奏に耳を傾けながら、地元の魚で寿司を握ってもらったり、ロースト・ビーフを切り分けてもらう時間は極めて贅沢な一時であった。「あと1日か……」ちょっぴり寂しくなるのもこの頃だ。
そして3日目の最終日。安曇野ワイナリーにて、ぶどう畑、ワインセラーの見学、安曇野のむヨーグルトの試飲を行った後、最大の難関であるスペシャル・ステージに挑戦した。PC競技は、決められた距離を決められた時間でいかに正確に走れるかが勝負を分けるのだが、スペシャル・ステージは指定距離が伝えられない。与えられるのは ‘平均35km/hで走れ!’ という条件のみで、フラットな直線を走るだけなら簡単そうなものだが、舞台は4〜5kmに及ぶ急コーナーの連続する峠道である。当然クラシックスにはクルーズ・コントローラーなど付いていないから、距離計とタイマーとにらめっこしながら走るしかない。静かであるが、エキサイトした戦いが火花を散らせていた。
山形村役場を経由して、ゴール地点となったあがたの森文化会館へと到着した。表彰の幅広さも、ヒストリックカーミーティング実行委員会が主催するイベントの特長。それぞれの賞がユニークなだけに、以下の写真ですべて紹介したい。
それにしても今年のJAPAN CLASSIC TOURも内容が盛りだくさんだった。既に長くなってしまったが、ここには書ききれていないことも沢山ある。「僕はね、もちろんクルマを通じた交流も好きなんだけど、(実行委員長の)天野さんが ‘どんな仕掛けをしてくるか’ が一番楽しみなんだよなぁ」と、あるエントラントが語ってくれたように、このイベントの面白さと心地よさは ‘仕掛け’ に隠れているように思える。
秘訣を実行委員長の天野氏に問うてみたところ、
・エントラントに絶対に心配事を作らせない
・単独行動になりがちなクルマ趣味に、人間同士のつながりをもたせる
・楽しんでもらうために、徹底的に尽くす
という3つを大切にしている答えが返ってきた。
印象的だったのは、クルマの種類や年式の話がまるで出てこなかった点。聞くに「ランボルギーニも軽自動車も、それぞれのオーナーにとって等しく大切なクルマなのです」という答えが返ってきた。また「よく考えるとですね、参加者のクルマを開発した人たちは、とっくの昔にこの世から去っているんです。でも僕たちが繋がる場を作り、クルマを愛し続けるきっかけを創出し続ける以上は、クルマは永遠に残り続けるんです」とも。
天野氏は、実態としてのクルマの先にある、お金では買えない価値と向かい合っていることがわかった。このイベントがある限り、クルマ好きの ‘拠り所’ は永遠に存在し続けるだろうと確信した瞬間だった。
ヒストリックカーミーティング実行委員会が主催する次回のイベントは、お馴染みの ‘ヒストリックカーミーティング伊勢志摩’。2017年3月11日(土)〜12(日)の2日間で開催予定だ。
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