text & photo:Kentaro Nakagomi (中込健太郎)
今日のクルマに至る進化において、レースやラリーの活動を抜きに語ることはできないだろう。身近な市販モデルの実力を試すためにチャレンジし、極論として非日常的な性能を発揮しつつ自動車の技術水準自体を上げるためにまたチャレンジする。そのパフォーマンスや音、挙動のすべてが、その時その時の限界へチャレンジした証であると言えるだろう。
トヨタ自動車には数多くの、歴史にその功績を刻んだ忘れることのできないモータースポーツで活躍したクルマが動態保存されている。往年の名車と一言で片づけるのは簡単だが、かつての名場面の再現とまではいかないが、時を超えてそうした名車たちが再び走らせ、その時代、やはり人々の心を癒し、揺さぶり、あこがれの的となった名曲の数々との共演という形でのエキシビジョン・イベントが、このDREAM DRIVE DREAM LIVEである。
久しぶりの開催となる今年も、クルマに負けないパフォーマンスを披露してくれるミュージシャンが登場することもあり、朝から大勢の人が列をなした。往年の名曲、昭和歌謡の東京大衆歌謡楽団。クラシック音楽やオペラの名曲をよりショーアップする藤澤ノリマサとヴァイオリニスト枝並千花のコラボレーション。そして華原朋美。なじみ深いか否かを超えてクルマの走りを盛り上げ、幅広い来場者を楽しませるならこれ以上ないというキャスティングだ。単に往年の名車を愛でるのみならず、音楽と重ね合わせることで、一人一人自分自身の思い出に浸り、過去を振り返ることができるイベント、子供からお年寄りまで、皆が一緒にその場を共有できるイベントとなった。
展示車の「ヒストリー」をひとつひとつ見学するイベントもよいが、実際の走りやその時代の社会風俗に触れることができる。自動車愛好家ではない人も楽しめ、もしかするとクルマの魅力を再発見できるかもしれない切り口を持ったこのイベントもまた自動車文化のひとつの手法を見たような気がした。
普段は最新モデルのテストドライブができるお台場メガウェブの「ライドワン」のコースに、ステージとエキサイティングな走りを目の当たりにできる専用コースがこの日のために特設された。様々なカテゴリー、時代のマシンが10台と、その走りそのものがコンサートの「曲目・演目」であるかのようにラインナップされたアーティストの演奏が繰り広げられた日曜日の午後。時にクルマが演奏とセッションする場面などもある、類を見ない、面白い切り口のイベント。
「レーシングカーと音楽 夢のコラボレーション!」と銘打って開催された、まさにメガウェブを運営するトヨタ自動車の面目躍如といったイベントで来場者を魅了した。また、レストアを担当したメカニックなども一緒に楽しむ光景を目の当たりにし、大変アットホームな温かい雰囲気も印象的だった。
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早い時間からお台場の会場には、リハーサル中のレーシングカーのエグゾーストノートが響きわたった。
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今回のイベントは入場無料だが、観覧パスが必要。配布開始の1時間前にはすでにかなり長い列ができていた。
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普段は新車の試乗ができる「ライドワン」のコースが今回の会場だ。ここをレーシングカーが走る。
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1965年型トヨタ・スポーツ800浮谷東次郎レース仕様車。
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1957年型トヨタ・クラウンRSDオーストラリア・ラリー仕様車(再現車)。
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1966年型トヨタ2000GTスピードトライアル挑戦車(再現車)。
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2012年型レクサスLFA ニュルブルクリンク24時間クラス優勝車。
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トヨタ・ヤリスWRCテストカー。トヨタは2017年からWRCに復帰予定。
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1969年型トヨタ7日本Can-am富士200マイル・レース優勝車。
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1992年型TS010 同年のSWC開幕戦モンツァ500km優勝車。今回は突然のトラブルで走行は見送られた。
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1993年型 ST185トヨタ・セリカGT-Four。同年のWRCでドライバーとメイクスの年間チャンピオンを獲得。
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1990年型 ST165トヨタ・セリカGT-Four。WRCに本格的な参戦をスタートした記念すべきマシンだ。
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メガウェブではこのイベント開催のため、おなじみの新車試乗ライドワンはお休みとなった。
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モータースポーツは自分で楽しむこともできる。ヴィッツと86のワンメイク・レースカーも紹介された。
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普段のアシを週末のレース活動に。ドライバーは背広姿で登場し名刺交換。日常を強調した演出に会場が沸いた。
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一部の人だけのものではなく、気軽に始められるモータースポーツこそワンメイクレースの魅力だ。
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「青い山脈」の演奏が始まるとクラウンもスタート。ラリーへの挑戦こそトヨタのモータースポーツの原点だ。
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走り出すと、その走りの軽やかさ、静かさ、速さに観衆からはどよめきが沸くほどだった。
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続いてトヨタ・スポーツ800と、それを追う2000GT。本気の走りは観衆の目をくぎ付けにする。
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最近ではコレクターズ・アイテムという印象も強くなった2000GT。速度挑戦車の迫力ある走りは圧巻だ。
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ポップオペラ歌手の藤澤ノリマサ氏と共に登場した枝並千花さんのヴァイオリンには金箔があしらわれていた。
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藤澤ノリマサ氏が歌う「誰も寝てはならぬ」と協演するLFA。ヤマハがチューニングした排気音は楽器そのものだ。
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セリカGT-Fourはリアルにその戦績を知っている人、乗っていた人も多いようでひと際注目の的だった。
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ST165セリカをドライブするのは、当時WRCで大活躍しオートスポーツイワセを主宰する岩瀬晏弘氏だ。
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ST185セリカにはTTEで1994年から日本人初のワークスドライバーとなった藤本吉郎氏がドライブした。
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夢の2ショット。贅沢なばかりか、そのパワフルで軽く高い安定性。セリカの強さを証明するような走りだった。
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セリカの輝かしい戦績は今も多くの人が記憶にとどめていることだろう。来年トヨタはWRCに復帰する。
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熱い走りの後の表情は観衆をも熱くさせる。記憶を呼び起こす点でクルマは楽器。走りはまるで音楽のようだ。
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秋雨の晴れ間の夕暮れ。クルマの走りを見て、それに合う音楽に浸る。過ごしやすく心地良い時間である。
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締めくくりは華原朋美さんの登場。クルマと音楽の融合、しかも対峙することの素晴らしさを改めて実感した。