かつて、ほぼランエボとの一騎打ちだった時代と比べると、いささか輝きに欠ける印象だ。最新モーター・スポーツ技術をフィードバックした新世代モデルたちに挑むのは、いささか分が悪い。一線を退いたボクサーが現役王者と張り合って、負けても感動のドラマとなるのは映画の中だけだ。

ここでは、現役選手の評価に集中しよう。知りたいのは400ps／48.9kg-mの5気筒をコンパクトボディの鼻先に積んだTT RSが、最新ランキングの上位陣を向こうに回した戦いでどれほどの実力を示すのか、ということだ。

まず向かったのは11月のウェールズ、霧の漂う、滑りやすくバンピーな山岳路。ハイ・パワー4WDの実力を試すには、絶好の舞台ではないか。

果たしてこのコースで、5気筒ターボは、クワトロ4WDは、シフト・パドル付きの7速DCTは、どのような走りを見せるのか。そしてアウディは、コリン・マクレーを史上最年少にして英国人初のWRC王者に就かせた、95年のスバル・インプレッサに異を唱えるだけのクルマを造り上げたのか、検証してみたい

超えるべき山

ひとくちで言えば、資格十分だ。目を見張るような驚きがあり、量販小型車としてはかなり賑やかなクルマである。もし最新のスーパーカーに馴染んでいたとしても、TT RSは十分に速く感じられるだろう。

しかし、もっとも感心するのは、爆発的なまでの凶暴さを持ちながら、それを容易に手なずけられる気分にさせてくれることだ。平たく言うなら、脳味噌ぶっ飛びで、ヤッちゃいたくなる、といったところか。

しかし、これをミラーに収めながらA45を走らせると、その姿は次第に小さくなる。それに関しては、フォーカスRSも同様だ。

もっと拮抗したバトルになると思っていたのだが、まずはフォーカスRSが、次の集合地点への到着で他に遅れ始めた。その原因はパワーやトルクの差だけでなく、トランスミッションの違いにもあったようだ。

どのクルマも、加速は力強い。高速域でも、低速域でも、険しい上り道だろうが、平坦な道だろうが。しかしアウディとメルセデス-AMGは、常にギア比が適正で、しかも指先ひとつで変速できるギミックを備えている。