アウディTT RS vs メルセデス-AMG A45 vs フォード・フォーカスRS
公開 : 2016.12.18 05:50 更新 : 2017.05.29 19:29
対するフォードは、より古風で、ドライバーに労力を求めるギアボックスを用意した。それでも速さは損なわれず、左半身を運動させるだけの意義はあるのだが、操作や機会との対話に集中力を裂かねばならないのも事実。
ドライバーの闘志が最高潮にあってはじめて、フォーカスRSは最大限の能力を発揮して応えてくれるのだ。余分な負担は確かにあるが、そこから得られるやり甲斐もまた、ライバルたちにはない。個人的には、好きなタイプだったりする。
ならば、残るもう一台のRSも引き離そうとドライバーはA45に鞭を入れるが、ミラーにぼんやり映る赤いクーペは、そこから消え去ることを断固拒否せんとばかりに食い下がる。
鼻先でAMGの直4ターボが発する爆ぜるような音と威嚇的な唸り声、それに後から被さる、アウディ直5のサウンドが刻一刻と音量を増してくるようだ。
ミラー越しに見えるTT RSが、徐々に大きくなってくる。LEDライトは眩しさを増し、直線では立ちこめる霧を切り裂いてディテールまで確認できるほどに迫ってくる。まるで、獲物を襲う獣のように。そのときA45のドライバーは、捕食者に狙いを定められた哀れな草食動物の境地を知ることだろう。
ここで乗り換え地点に到着した。攻守交代、とばかりにTT RSで走り出す。すると、このクルマに欠けているものが何かを知ることとなった。
この直5ターボの性能曲線は、1700rpmで発生した最大トルクを、ほぼ6000rpmまでキープするカーブを描く。しかし走らせてみると、それを実感できないのだ。線の細さやピーキーさなどはまるでないのだが、2000rpmと4000rpmを過ぎる辺りであきらかに失速を感じる。短時間のうちに、可能な限りの出力を路面へ叩きつけようとするなら、4000〜7000rpmの間で回転をキープこととなる。
とはいえ、ほぼ中回転域にトルクのピークが集中するA45に比べれば、TT RSのそれはより偏りがないといえる。サウンドは、加速時の得体の知れない “ブワァーップ” というノイズよりはるかに響き渡るが、これが実にすばらしい。正真正銘、秀逸なエンジンだ。
ドラマティックで、スムースで、濃密で、フレキシブル。エキサイティングで、非常に力強い。芝刈り機みたいなケイマンとは比較にならない、愛すべきパワー・ユニットである。