時代の寵児か、それとも徒花か グループBポルシェ、959に乗る
公開 : 2017.04.02 00:30 更新 : 2017.05.29 19:03
317km/hに誘うツインターボ
959の直線でのスピードをテストすれば、改良されたターボチャージャーによって積み増しされた127psのパワーを実感できる。一つめのターボは、かなり低い回転数から始動し、クルマを静止状態からトルクの波に乗せ、1351kgの重量を感じさせない。しかし、このスーパーカーの真の性能を実感するのは、針が4000rpmに達し、2基目が回転し始めた時だ。前方の光景が瞬く間に消滅し、959は、自由落下しているかのように前方に突進する。フェラーリF40よりも早い約3.7秒で時速96km/hを超え、最高時速317km/hへと誘う。
今回取り上げたクルマの現在のオーナーは、959の徹底した性能と同様、そのオールラウンドな能力を高く評価しているという。「このポルシェですが、最初に買った時には高過ぎるというほどはなかったので、たくさん乗りました。休日はレースに出場し、子供たちを学校に送り迎えし、クルマで欧州諸国に行き、さらにはセインズベリーへの買物にさえ使っていました」
「このクルマは、基本的には、オーナーのどのような希望にも応えてくれます。ゆっくりと周囲を回りたければそうできます。とても行儀が良く、オーバーヒートすることもなく、雨天でも晴れている日と同じ速度で走ることができます。もっと速く走りたければ、喜んでそれに応えてくれ、最大加速では、シフトアップの際にマフラーから穏やかに炎を吐き出すのです! また、ブレーキも素晴らしく、スパ・フランコルシャンを30分程度周回した後でも、フェードの兆候さえ見せたことがありません」
意外に低いメインテナンス費用?
「メンテナンスが心配で、巨額の修理代金を請求されたという怖い噂を耳にしますが、私はまだそうした経験をしていません。私の場合、1年間に7500ポンド(約140万円)以上使う必要に迫られたことはないと思います。ええ、それでも随分な額に聞こえるのはわかっています。けれども、959がどんなクルマか、また、その現在の値打ちを考えると、むしろ安上がりだと思います」
最初の買い手が1987年に納品を受けるようになった頃には、959を取り巻いていた熱狂が薄れ始め、さらに同年に959のお株を奪う最高速度323km/hのフェラーリF40が発売された。なお悪いことに、ホモロゲーション・スペシャルの生産台数が、200台限定という当初の約束に反し、1989年には300台近くに膨れ上がったため、投資目的で購入していた人々をひどく失望させた。
しかしながら、こうした問題は時とともに癒えた。特に959は、同時代のクルマと比較しても、よく熟成したクルマだった。959は、現在、技術的傑作車として、現代のあらゆるハイパーカーの先駆的な公道レーシングカーとして正当に記憶されている。959は、ブガッティ・ヴェイロン、コンコルド、そして英仏海峡トンネルと同様、技術屋の情熱が事務屋の抵抗を押し切った極めて貴重なレアケースであり、今日の経済情勢から推して、かなり遠い未来にわたって二度とは起こり得ない奇跡であると言える。