ウェッジシェイプ・デザインの色褪せない魅力 2台のロータス・エスプリに乗る
公開 : 2017.04.15 00:00 更新 : 2017.05.29 19:24
本家ジウジアーロのお墨付き
あとは、この手直ししたデザインがどう受け入れられるかを調べるだけだ。「オリジナルが大絶賛されたことを自分は強く意識していた。しかも自分は、デザイナーとしてはまだ駆け出しだった。オリジナルを凌駕するのは無理だと思ったが、それでもエスプリと認識される少し違ったクルマならデザインできると思った」
このリデザインされたニュー・エスプリは1987年にロンドン・モーターフェアで発表された。「ジウジアーロがブースに近づいてくるのを見て、『やれやれ、ご本尊の登場か』と不安に思った。でもそんな心配をよそに、彼は私の肩に手を掛けると『良い仕事をしたね』と言ってくれた。市場でも好評で、86年に454台しか売れなかったエスプリが88年には1058台も売れることとなった」
エイドリアン・ブリスコーの自然吸気モデルは、リアにバトレスを採用したため、オリジナルのエスプリよりも細長く、どっしり構えているように見える。実際には、スティーブンスとそのチームがすべてのボディ・ディメンジョンを1インチ増の範囲内に収めるようにしたため、こうした印象を受けるのは目の錯覚だ。ボディと同色のバンパーは、オリジナル・モデルのブラックより良い。一体感を感じさせ、フロントにどこかランボルギーニ・ディアブロを思わせるような印象を与えている。スティーブンスは当然それには不満だろうが、後期タイプのSEリア・スポイラーが装備されていた。だが、それがエスプリS1と同じようなドラマを感じさせるかといえば、残念ながら答えはノーだ。ただそれは、オリジナル・エスプリのインパクトがあまりに強かったためだろう。
インテリアの変更に関しては具体的計画がなかったが、その際の第1世代の内装の原価がいくらなのか、ロータスでは誰も把握していないことにスティーブンスは気づいた。調査後、ニュー・バージョンのインテリアをより低コストで短期間に製造できることが分かった。新インテリアでは、ヘッドルームが広くなり、バックレストの傾斜もやや増している。ダッシュボードには6つの小さなVDO製計器が配置されたが、小さいために読み取りにくく、オリジナルに較べるとずっと地味だ。フットウェルもやや広くなったが、ペダルは近接しているように感じる。スロットルとブレーキをルドフル・ヌレエフが踊るように操作するには、足がもつれないよう右脚を少し引っ込めなければならない。
ずっと洗練されたドライバビリティ
路上の走行感はオリジナル・エスプリに近いものの、全般的により洗練されている。初代モデルには、キットカーがベースになっていると感じさせる部分があるが、ニュー・エスプリはずっと洗練されている。高速走行時にも、S1のようにウインド・ノイズや共鳴に悩まされることもない。背後から聞こえる吸気ノイズを除けば、室内は静かなままだ。新型のルノー25のトランスアクスルを採用したため、ギア・シフトはがっしりしており、しっかりとした操作感がある。しかし、シフト・レバーに中央に戻ろうとする傾向がある。特に2速と5速ではそうした印象が強い。
2.2ℓエンジンのトルク拡大とエアロダイナミクスの25%改善によって、性能も強化され、0-97km/h加速は2秒も短縮された。しかし、このクルマを乗って楽しいクルマにしているのは、より早い段階に実施されたサスペンションの変更とタイヤ幅の拡大だ。回転木馬のように、平凡なクルマが、人生にちょっとした喜びを与えてくれるクルマに生まれ変わったとも言える。
S1はやや生硬なところがあり、メカニカルな妙なクセに悩まされたり、高速走行時に乗り心地が粗くなるところがあるが、荒々しいまでのそのラインの純粋さは今でも人を驚かすことができる。しかし、客観的に判断するのであれば、スティーブンスのエスプリの方がすべての面で優れている。あらゆる面においてオリジナルを凌駕している。とりわけ、エスプリS1が強く批判された性能面で特に大きな違いがある。またスティーブンスのモデルは、2回目のリスタイリングや、1996年の当初の計画通りのV8搭載を含め、エスプリがその後17年間も生産され続ける土台を築いたクルマでもある。
だが、いつでも勝負の決め手になるのは、自分の中にある少年の心と、ミスター・ボンドだ。ショー・ウインドウの前に写るエスプリS1の空間を切り裂くような姿を見飽きることがあるだろうか。そして、自分にはコーギーのミニカーの思い出もある。ロジャー・ムーアがホワイトのエスプリをヘリコプターから発射させて、海中に飛び込むと潜水艦になったシーンも忘れがたい。最初に述べた言葉を取り消そう。自分はやはりウェッジシェイプ・デザインの大ファンだ。
ロータス・エスプリS1
生産期間 | 1976〜1978年 |
生産台数 | 718台 |
車体構造 | スティール・バックボーン・シャシー/グラスファイバー・ボディ |
エンジン形式 | オールアロイ4気筒DOHC16バルブ1973ccツインチョーク・デロルト45DHLAキャブレター |
エンジン配置 | ミド |
駆動方式 | 後輪駆動 |
最高出力 | 162ps/6200rpm |
最大トルク | 19.4kg-m/4900rpm |
変速機 | 5段M/T |
全長 | 4191mm |
全幅 | 1867mm |
全高 | 1111mm |
ホィールベース | 2438mm |
車輛重量 | 898kg |
サスペンション | (前)不等長ウイッシュボーン/アンチロールバー/コイル (後)ダイヤゴナルトレーリングアーム/ラテラルリンク/フィクストレングスドライブシャフト/コイル |
ステアリング | ラック&ピニオン |
ブレーキ | ディスク(リア/インボード) |
0-97km/h | 8.4秒 |
最高速度 | 198.4km/h |
現在中古車価格 | 370万円〜 |
ロータス・エスプリSE
生産期間 | 1987〜1989年 |
生産台数 | 268台 |
車体構造 | スティール・バックボーン・シャシー/グラスファイバー・ボディ |
エンジン形式 | オールアロイ4気筒DOHC16バルブ2174ccツインチョーク・デロルト45DHLAキャブレター |
エンジン配置 | ミド |
駆動方式 | 後輪駆動 |
最高出力 | 174ps/6500rpm |
最大トルク | 22.1kg-m/5000rpm |
変速機 | 5段M/T |
全長 | 4330mm |
全幅 | 1860mm |
全高 | 1150mm |
ホィールベース | 2438mm |
車輛重量 | 1177kg |
サスペンション | (前)ウイッシュボーン+トランスバースリンク/アンチロールバー (後)アンイコールレングス・ダブル・トランスバースリンク/ラジアス・アーム |
ステアリング | ラック&ピニオン |
ブレーキ | ベンチレーテッド・ディスク/ディスク |
0-97km/h | 6.5秒 |
最高速度 | 222km/h |
現在中古車価格 | 275万円〜 |