創始者フェルッチオ・ランボルギーニのカウンタック

公開 : 2017.04.16 00:00  更新 : 2017.05.29 19:21

「感覚」で乗るクルマ……?

キーを1段だけ捻り、背中の後ろで準備が進む音を確認してから、アクセルを少しだけ踏み込んでキーを一杯まで捻るとエンジン・スタート。驚いたことにV12はいきなり爆音を奏でたりはせず、思いのほか静かにアイドリングを始めた。今日の新進気鋭のスーパーカーはコンピューター制御でブリッピングし、その勇ましさを人工的にチューニングしたエキゾーストで強調するが、カウンタックにはそんな軽薄な楽しみなど不要なのである。

どんなときでも、ドライブの初期に最も注視すべきメーターは油温計だ。その針が上昇し始めるまでは、ギア・チェンジも固い。しかし正直に言って、カウンタックは想像するほど扱いにくい相手ではなかった。最大の問題は視界が狭いこと。クルマのフロント・コーナーは死角に入っているし、後方視界はほんの僅かしかない。斜め後ろに至ってはミステリーである。ドア・ミラーは役には立つが、そこに大きく映っているのは特徴的なエア・インテークだ。現オーナーが認めるように、これは「感覚」で乗るクルマ。フェルッチオの奥さんはこのクルマで町に出かけ、問題なく駐車していたというけれど……。

タコメーターは8000rpmからレッドライン。


乗り心地は堅いが、イタリアの田舎道でも快適だ。太いステアリングからは、路面感覚が余すところなく伝わってくる。LP400Sはエアコンも改良されたが、涼しさを求めるには充分ではないし、外気を取り入れようとしてもドア・ガラスのほんの一部が途中まで降りるだけ。手を出すのがやっとだ。

矢のような加速

サンタアガタの町をどうにか抜け出すと、道路は直線が多くなってきた。カウンタックの脚を延ばすチャンスだ。3速、2500rpmからストロークの深いアクセルを踏み込めば、瞬間的にウェーバーが咳き込んだ後、エンジンサ・ウンドが一気に高まる。4000rpmを超えるあたりからがV12の本領発揮。まるで機関車に引っ張られたように前方へ吹っ飛んでいく。そろそろシフト・アップのタイミングかと思うが、ハードな加速はまだ続いている。6000rpmでエンジン・ノイズがもう許容限界。シフトアップしてスロットルを戻しても、カウンタックは矢のように突き進むのをやめなかった。

背の低いドライバーなら快適なキャビンだが、レポーターのペイジにとってはヘッドルームは不足気味だ。


LP400Sの多くは357psだが、初期スペックのハイリフトカムを組んだものは380ps。このフェルッチオのクルマもそれだ。3速までで、とんでもない速さを充分に楽しめる。4速や5速に入れて潜在能力を引き出すには、それなりの道を選ぶ必要がありそうだ。

チェントの住人はランボルギーニを見慣れているはずだが、道端の人々はわれわれのカウンタックを見て微笑み、手を振ってくれる。クルマを停めるたびに(Uターンするときでも)、どこからともなく子供たちが現れ、取り囲まれてしまうほどだ。われわれはこの小さな町の中心にある広場に駐車した。2000年に「フェルッチオ・ランボルギーニ広場」と命名され、6年後には記念碑が建立された場所だ。ファビオに誘われるまま、通りの反対側にあるフェルッチオのお気に入りだったレストランでランチ。つつましい感じの店だが、料理は素晴らしい。前菜とトルテリーニを楽しみながら、話題はおのずとフェルッチオへと向かった。

深いディッシュ型のアロイホイールはカンパニョーロの「ブラーボ」。

優しい性格だったフェルッチオ

「性格的に、フェルッチオはエンツォ・フェラーリとは正反対だった」とファビオ。「フェルッチオはモルト・ジェンティーレ……つまり、とても優しい人だった。誰とでも分け隔てなく会話し、人々は喜んで彼のために働いた。自身が大きなモチベーションを抱くと同時に、従業員にもモチベーションを持たせようと気を遣う人だった。事業が成功して裕福になっても、その姿勢が変わることはなかった。今になっても、ウェリントンの長靴を履いて農作業をやっていた頃の叔父を思い出すよ」


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