7台のアバルトに乗る
公開 : 2017.06.04 11:40 更新 : 2017.06.04 12:35
美しいボディをまとった750GTザガート
フィアット600が1955年に登場すると、カルロ・アバルトはすぐにそれを改造車の好機到来だと捉え、1年後にアバルト750を送り出した。ボアを広げ、ストロークを延ばして、排気量を633ccから747ccに拡大。新しいカムシャフト、大径バルブ、ウェーバーの32IMPE型キャブレター、特製の排気マニフォールドなどにより、ノーマルの21.8psの2倍に近い42.1psを発揮する。最高速度は130km/hに達した。
ザガートが手掛けたデザインは空気抵抗の低減を追求したもの。
しかしアバルトは量産車のチューニングだけでは物足りず、カロッツェリア・ザガートに新たなボディのデザインを依頼。フィアットからザガートにシャシーが供給され、ボディを載せた後にアバルトに送られてメカニカルパーツを改造する、という作り方だった。
メーターパネルの中央にタコメーターが鎮座する。
「専用ボディのGTを得たことで、アバルトは他のチューナーと一線を画すことに成功した」と語るのは、ミドル・バートン・ガレージのトニー・キャッスルミラー。フィアットとアバルトのスペシャリストだ。「750 GTザガートに続いてレコルトモンツァやビアルベーロ、OTシリーズといったクルマを送り出し、ザガートは新たな市場を開拓した。他にも、例えばポルシェ356のカレラ・アバルトをそこに加えてもよいだろう。どれも国内外のレースで目覚ましい活躍を見せた」
フィアット600の4気筒をベースとする747ccエンジン。
750GTザガートは写真で感じるよりずっと小さなクルマだ。そのアルミ・ボディは衝撃的なほど美しく、バランスがよくてデリケート。しかも空気抵抗が小さい。それに加えて車重は量産600の595kgより60kgも軽く、最高速度は20km/hアップした。ザガートはボディの全高を下げながらも、後にトレード・マークとなったダブルバブルのルーフで乗員の頭上空間を確保。リア・デッキの2つの隆起には、エンジンにフレッシュ・エアを送り込むインテークが設けられている。
ボディ・サイドにはザガート製ボディを表す「Z」の文字が入る。
インテリアはシンプルだがエレガントだ。宝飾品のようなイエーガーのメーターとスポーティなステアリングが、まさに洗練そのもののフィーリングを伝えてくれる。繊細な印象だからといって、脆弱なクルマだと勘違いしてはいけない。エンジンに火を入れれば、レスポンスは活発だ。加速は力強く、タコ・メーターの針は一気に登り詰める。軽量ボディのおかげでステアリングも心地よく軽いから、ハードに飛ばしても疲れ知らずである。750GTザガートのレースでの最初のハイライトは、57年ミッレミリアでのクラス優勝。総合では67位、平均速度は120km/hだったが、フィアット600をベースとするクルマにしては悪くない結果だった。
アバルト750GTザガート
生産期間 | 1957〜1960年 |
生産台数 | N/A |
エンジン形式 | 鋳鉄ブロック・アロイヘッドOHV747cc |
エンジン配置 | リア縦置き |
駆動方式 | 後輪駆動 |
最高出力 | 43.6ps/5800rpm |
最大トルク | 5.5kg-m/4000rpm |
変速機 | 4段M/T |
サスペンション | アッパー・トレーリングアーム・ロワ・トランスバース/セミ・アッパー・トレーリングアーム |
ステアリング | ウォーム&セクター |
ブレーキ | ドラム |
車両重量 | 535kg |
0-97km/h | 17.3秒 |
最高速度 | 139.2km/h |
現在中古車価格 | 880万円から |