7台のアバルトに乗る
公開 : 2017.06.04 11:40 更新 : 2017.06.04 12:35
フィアット500ベースのベストセラー、595SS
フィアット600から派生したクルマがアバルトの事始めだったとすれば、500ベースのクルマはアバルトに商業的な成功をもたらした。57年に登場した「ヌオーヴァ・チンクエチェント」は、600と違って空冷エンジンにノン・シンクロのギアボックスという組み合わせ。アバルトはこのシンプルなクルマを使って、モータースポーツを大衆にも手の届くものにしようと考えたのである。そこで最初に行ったのが、大径キャブレターと高い圧縮比、アバルト・マフラーなどで479ccの2気筒を7.6psパワーアップすること。最高速度は人々の心を惹くに充分な100km/hに達していた。
赤いデカールが、ただの500ではないことを主張する。
フィアットはこれを100台発注。58年の2月13日から20日にかけて試作車がモンツァで6つの国際速度記録を樹立したのを経て(1万8186kmを平均速度108.52km/hで走行)、フィアット500アバルトとして発売した。さらにアバルトは、レースの成績に応じてフィアットから報奨金を受け取る契約を取り付けることに成功。資金面のはずみを得て、595/695の開発をスタートさせた。
スポーティなステアリング。
ここに紹介する595SSは、スタンダードな595の進化版だ。どちらも500D(第2世代の500でエンジンは499cc/17.7ps)のボディをベースに生まれたが、SSはキャブレターをソレックスの34PBICに変更し、ヘッドカバーと一体で鋳造した吸気マニフォールドを採用。さらに圧縮比を9.2から10.5に高めるなどにより、パワーは32.4psにまでアップしている。
32.4psを発する空冷ツイン。
スパルタンなエクステリアからフロアに置かれたイグニッション・スイッチ、あちこちに配されたアバルト・バッジまで、SSはすべてにおいて魅力的だ。走り始めれば、それはもう底抜けに楽しい。最初は2気筒の粗さを感じるが、回転を上げるにつれてスムーズになる。ステアリングは信じられないぐらいダイレクトだ。
SSは595の究極の進化版である。
0-60mph(0-97km/h)加速に21秒もかかるが、そんなことは取るに足らない。20km/hを超えれば、もはや空を飛ぶかのような感覚。ドラム・ブレーキだけは、このクルマの出自の低さを思い出させるけれど……。
595からの進化型は、595SSと同等のパワーをより低回転から引き出せる689ccの695、さらに「コンペティツィオーネ」の695SS、ワイド・トレッド化した695や アセット・コルサなど多岐に渡る。69年末時点で、アバルトはフィアット500をベースとするクルマを12車種もラインナップしていた。小さなコンストラクターにしては、驚くべき数である。
アバルト595SS
生産期間 | 1963〜1971年 |
生産台数 | N/A |
エンジン形式 | 鋳鉄ブロック・アロイヘッド空冷OHV594cc |
エンジン配置 | リア縦置き |
駆動方式 | 後輪駆動 |
最高出力 | 32.4ps/4900rpm |
最大トルク | 4.4kg¥m/3500rpm |
変速機 | 4段M/T |
サスペンション | 4輪トレーリング・アーム |
ステアリング | ウォーム&セクター |
ブレーキ | ドラム |
車両重量 | 470kg |
0-97km/h | 21秒 |
最高速度 | 130km/h |
現在中古車価格 | 560万円から |