プアマンズ・ポルシェ? リッチマンズ・ビートル? VWカルマン・ギアに乗る
公開 : 2017.06.10 00:00
スムーズなトラクション
私に笑いが込みあがるのより1歩遅れてスピードが上がってくる。しかし、トラクションの掛かりはスムーズだし、エンジンも心地よく回る。クルマを降りる理由はどこにもない。海辺の田舎道に、ぼんやりしている無数の羊。それを見ていると、想定最高速度140km/hなど何の意味もなさなくなって来る。
フロアから伸びるオルガン・タイプのペダルは、中心寄りに驚くほどオフセットしている。これに慣れるのは簡単、というよりも、加速の伸びを失わないようギアチェンジを有効にしたいなら、慣れなければいけない。この後期のカルマン・ギアは、フロントのディス・クブレーキ化(4輪ドラム・ブレーキの旧車オーナーにとって手軽に別世界を体験できる)の甲斐あって、ブレーキングはたやすいものだ。雌羊が通りの向こうから自暴自棄な猛突進を仕掛けてきても、ブレーキ・ペダルを蹴飛ばしさえすれば、クルマは直ちに止まる。
クーペなら96万円で手に入る
雨雲が去り光が射してくる。私の肌がじりじり焼けていくのに頬を緩めつつも、カルマン・ギア・カブリオレは高価なクルマであると思い出さなくてはいけない。なんとクーペのちょうど2倍のプライスだ。ことによるとそれこそが障害だ。こういった程度のいいカブリオレは1万ポンド(160万円)をくだらないから、初期の911または、356を引き合いに出すのでない限り、お買い得商品として店に並べるのは難しい。同価格帯に同じフラット4を積む912がいるのだから。ソフトトップを諦めても、なんとも味わい深いジレンマがあなたを待っている。さぁ、数学の時間だ。程度のいい911Tは2万ポンド(320万円)はする。そこそこの912なら1万ポンド(160万円)を少し超えるくらいだ。同じカルマン・ギアでもクーペなら、わずが6,000ポンド(96万円)であなたのガレージに収まる。後は預金通帳との相談だ。しかし悩みはつきないだろう。
モアパワー、モアパワー
では、一番重要なことを一言。今や、からりと晴れ上がった昼下がりに好きなだけ走り回っても、どうしても付いて回る不満の声が心の片隅に聞こえてくる。それは何度も同じ呪文を唱えている。「モアーパワー。モアーパワー」。しかしそれさえ頭から除ければ、カルマン・ギアの後部に収まるビートルのエンジンというのは、非の打ち所なく丈夫だから悪くない。力強いし、リッター10km以上(ノーマルなら)走るし、4、5時間してやっとガス欠の兆候が出てくるほどだ。これには心をつかまれる。