祝! ポルシェ911生産100万台 歴代911/100万台記念モデルで旅へ
公開 : 2017.06.17 00:45 更新 : 2017.06.17 14:50
非凡な平凡
自分は幸せ者だ。走った距離は40km足らずだが、誰にも邪魔されないその時間は、そのエンジンを高らかに歌わせ、まるで初号プロトタイプを走らせているような栄誉を感じるには十分だった。
速い、と感じた。£7,000(99万円)のオプションであるGTSのエンジンを積んでいるのではないかと訝しんだほどに。だが、なにより強かったのは、これこそまさに911だ、という実感だった。
コーナー入り口で、初期モデルのような曲がりづらさを示すわけではない。ステアリングホイールが、手の内でもがくわけでもない。964ターボのような二面性も、GT3のような獣を思わせる攻撃性もそこにはない。
性格的には、993を思わせる。完璧で、円熟味があり、信頼できる友人か、さもなくば共犯者になれるように感じさせるのである。
しかし、サーキットより公道志向の味付けや独特のエンジン音、コンパクトさやルックス、容易に破綻しない走りなどが、ダストキャップに至るまで911なのだとつくづく感じさせるのである。
しかし、このクルマ最大の美点は、もっと単純だ。それは、これがありふれた911に過ぎないことである。
このクルマはポルシェが保管するので、ミュージアムに足を運べば、他の歴史的なポルシェと並んで展示されているのをいつでも目にできるようになるのだが、走らせる機会は滅多になくなる。
いくつかの装飾とアイリッシュ・グリーンの塗装を別にすれば、それはどこにでもある911と変わりない。1万台目の特別な存在ではなく、単なる1万分の1だというわけだ。
その差は決定的だ。今までも、そしておそらくこれからも最も驚嘆すべきスポーツカー、そのうちの平凡な1台。これこそ最高なのではないだろうか。