クーペ・フィアット誕生秘話 デザイナー、クリス・バングル独占取材
公開 : 2017.10.08 10:40 更新 : 2021.01.30 21:48
フォードGT40とカロッツェリア
バングルと彼のチームは、奇抜なアイデアをもてあそんだ。この新型フィアットは、どこから見てもひとを驚かせ、そして呆れさせた。
フィアットの経営陣は、ニューモデルであるからには、他とは違う奇抜さで人目を引く必要があると考え、ピニンファリーナの保守的なデザインよりも珍妙なデザインを選んだというわけだ。
それから20年が経過した今、イタリア語でボンネットを意味するcoffanoと泥よけを意味するparafangoからコファンゴというコードネームで呼ばれていたクーペ・フィアットは、われわれの目が慣れてしまったせいもあって、当時受けた衝撃はない。
それでも、デビュー当時のライバル、フォード・プローブやローバー200トムキャット、ヴォクゾール・カリブラが悲惨なほど古めかしく見えるのに対して、フィアットのアバンギャルドなデザインはいまなおひとをワクワクさせるものがある。
当時を振り返ってバングルは以下のように語る。「1970年代のフォードGT40が持つ世界と、イタリアのカロッツェリアが持つ世界。このふたつの世界を結びつけるのが狙いでした」
「このクルマのフロントを注意深く見てみると、ヘッドライトの形やノーズの平坦さ、グリルインテークの形などにGT40へのオマージュが込められているのに気付きませんか。その一方で、クルマの側面や断面は、イタリアンデザイン、特に1984年型のベルトーネ・シェビー・ラマーロやランボルギーニ・アトンにインスピレーションを得ています」
「どちらのクルマもフラットなホイールアーチを持つデザインですが、ショルダー部分が張り出しているため、当然、ホイールアーチはラインで裁ち切られた形になります。フィアットが、このデザインは『切り裂かれたキャンバス』の代表作で知られる画家のルーチョ・フォンターナにインスピレーションを得たとプレスリリースで主張しているのには驚かされましたね。あの頃、フォンターナという画家の名前を、わたしは聞いたこともなかったのですから」
クーペ・フィアットのもうひとつの重要な要素に、円形のライトを縦に重ねてレイアウトし、短く切り落とされたようなカムテールがある。詳しく見ていこう。