回顧録(6) パガーニ・ゾンダFに試乗 価格高騰、「狂気」が理由?
公開 : 2017.10.14 10:10 更新 : 2017.10.14 11:22
スーパーカーリーグのカムバック賞
でもあれは2002年のことだった。2005年の現在までの間にスーパーカー界の状況はガーンと大きく変わっている。すなわちフェラーリがエンツォをだし、ポルシェがカレラGTでそれに応酬したと思ったらメルセデスはSLRの車名をついに復活させてしまい、そしてブガッティももうすぐだしてくる。
1000psや400km/hという数字をモノ笑いのタネにしている連中にひとアワ吹かせるべくヴェイロンを。さらに、ここ数カ月の間にはまた別のクルマもでてくるはずだ。たとえばケーニセグとかグンパートとかエドニスとか。
そういうなかで、パガーニはちょっと日陰モノになっていた。とはいえ依然として、ゾンダS 7.3はこのテのクルマのなかでもっとも作りのよい、そしてまず間違いなく乗って最高にオモシロイもののひとつだった。
ただし、超特急クラスのサルーンでもだせるような550psぽっちではヒキが弱かった。もっと速いゾンダをださないことには、忘れられてもしかたなかった。
さらに速いゾンダを仕立てるにあたり、当初彼らはエンジン関係だけをやるつもりでいたそうだ。排気量7291ccから555psというSのチューンはまだ余裕たっぷりで、したがってそこからピーク出力を高めるのは困難な仕事ではなかった。
ということで吸気系を一新し、背圧のより低い排気系をつけ、あとはエンジン・マネージメントのプログラムをやり直しただけでアッサリ602ps/6150rpm。
エンジニアによればエンジン内部は690psまではイジらずにイケるそうで、ただしそこまでやるとパガーニのもっとも大きな美点を失うことになってしまうという。すなわち、驚くほど高いドライバビリティを。
ということでピークパワーは602psに落ち着いたわけだけど、それで開発が終わったわけでは全然なかった。エンジン単体でみれば十分にドライバビリティ重視といえる602psも、クルマ全体のなかでは突出していたから。
そして、602psをちゃんとこなすだけのクルマにSを仕上げる仕事は一筋縄ではいかなかった。パガーニの皆さんは完璧主義者で、エンジン以外の部分も徹底的にやり直さないではいられなかった。
ゾンダSとゾンダFのハードウェア上の違いをいちいち数え上げるような人はいないだろうけど、コンポーネンツのレベルでいうとFはその40%が新規だ。ほかのマニュファクチャーならきっと、白紙から作り上げたまったく別のクルマだといいはるだろう。