「独身貴族のクルマ選び」 335iクーペ vs TTクーペ3.2 vs ケイマン 回顧録(7)
公開 : 2017.10.15 09:10
高価なクーペの絶対必要条件
この3台は走りのキャラクター自体大きく異なる。アウディのステアリングを握って、ワインディングでポルシェとのバトルをしてみると、最初のコーナーを抜けただけで、両車の間には決して埋まらない決定的な違いがあると気づく。
極論すると、アウディは純粋にスポーツドライビングを愉しむためには造られていない。先代モデルから見れば、走りは飛躍的に良くなったが、そこには依然としてスポーツスピリットの神髄が欠けている。
ポルシェはしなやかな足が路面のうねりと息を合わせるように動き、大小さまざまなコーナーを流れるようにクリアしていくのに対して、アウディの足はソワソワと落ち着きがなく、舗装の良くない道では跳ねる傾向もあるため、ポルシェのようにリズミカルには走れない。ステアリング・インフォメーションもポルシェほど濃厚ではない。
BMWのシャシー・ポテンシャルも高い。ボディコントロールは優秀で、路面状況に関わらず文句のないロードホールディングが得られる。このため、湧き出るようなトルクを余すことなく路面に伝えられる。
ワインディングでのシャシーのポテンシャルという意味ではポルシェの7割ほどのレベルだが、高速道路の快適性で勝負すれば、ポルシェもアウディも目じゃない。
BMWの数少ない不満点はステアリングで、センター付近が曖昧なことに加えて、インフォメーションも不足気味である。
BMWがポルシェとアウディの2台に明らかに負けているものは走りに関することではない。
それは、700万円もするクーペなのにまるで人目を引かないということだ。アウディに乗っていると老若男女を問わず熱い視線が注がれるし、ポルシェの場合はカーガイから質問攻撃に遭う。
ところが、BMWではそのどちらの体験もできない。
高価なクーペを買うということは、優れたパフォーマンスやクオリティの高さを手に入れるだけではなく、ひとびとから羨望の眼差しを受けることも含まれると考えるのはおかしなことではない。
もし、貴方もそういうふうに考えるのなら、選ぶべきはBMWではなくアウディかポルシェだ。そうではなくて、クルマを操る愉しさを最優先するなら、選ぶべきはアウディではない。
新型アウディTTの走りの洗練度は先代モデルから大きく向上しているが、だからと言って、ワインディングでポルシェと張り合えるシャシーは備えていないのだ。
結論に移ろう。