BMW Z8試乗記 相場は正直? 「オリジナル」の理由を探る
公開 : 2017.10.15 17:10 更新 : 2017.10.16 06:06
過去の名作の低解像度コピーではない
アクセルを踏むと、エグゾーストパイプがV8エンジンの空に響き渡るようなあからさまなファンファーレを奏でるため、ついついスロットルを踏まずにはいられない。発進加速は鋭い。スポーツボタンを押すと、スロットルのレスポンスがさらに鋭くなるZ8は、静止状態から2秒未満で時速48km/hに到達でき、その後すぐに3桁台の速度域に突入する。
運転は驚くほど容易だ。M仕様のクアッドカムV8は、リミッターの効く7000rpmまで一気に吹け上がり、その一方6速でも無理なく時速64km/hから加速する。ただし、ギア比の変化が比較的小さいにもかかわらず、シフト動作はややもたつく。
Z8は、新車時に、直線では猛烈に速いものの、コーナリングは苦手だった。なぜなら、ランフラットタイヤの使用に踏み切ったことが、この車にとって大きな仇になったからだ。
話を現在に戻すと、まだオリジナルのランフラットタイヤを履いているZ8はほぼ存在しない。この車と同様に従来型のロープロファイルのブリヂストンタイヤを履いていればコーナリングは格段に良くなっている。
ステアリングは正確であり、過度にアシストされているフィーリングがないのが良い。最終的には、フロントエンドが最初に流れるものの、アンダーステアは穏やかであり、BMWのダイレクトスタビリティコントロールを外してスロットルを大胆に踏まない限り、リアエンドが流れる心配もない。
また、大型のベンチレーテッドディスクブレーキの効きもすさまじく、カタログデータによると時速96km/hから静止するまでに2.5秒しかかからない。また、幌のばたつきも少ないため、高速ドライビングも充分に楽しめる。
Z8の最もおいしい部分がV8エンジンのフィーリングだ。これこそがZ8の切り札である。1台でも真剣に運転すれば、Z8の魅力がわかる。この箇所を大書したい。しかも、大文字で。
Z8は、確かに相矛盾する特徴を兼ね備えている。まるでドラッグスターのように荒々しく加速し、しかし洗練されている。スポーツカーであるよりはGTカーに近いように感じられるが、浅目のトランクのラゲッジスペースは比較的小さい。地方道で飛ばすのに楽しいクルマではないが、クルージングにもそれほど適している訳ではない。
それでも、消去法でばかり考えていると、Z8の本質を見失うことになりかねない。レトロスタイルの他の多くの車とは違い、時の試練に誇り高く耐え、性能を向上させさえした古典美に溢れるロードスター、それがZ8なのだ。
BMWがクラシックを生み出そうとしたことは明らかであり、そのことは、スペアパーツの供給を50年間保証する同社の姿勢にも表れている。そして、多くの点で、これに成功した。Z8は、決して過去の名作の低解像度コピーなどではなく、まさにオリジナルそのものだ。