BMW M5 E60 vs フェラーリF430 新車当時の評価は? 回顧録(8)
公開 : 2017.10.21 12:25 更新 : 2017.10.21 14:21
サウンドのみならず洗練性も
針が5000rpmに至ると、M5のV10サウンドはさらに刺々しさを増した。さっきまでは後ろを走るF430の挑戦的なエンジン音が聞こえていた。だがもうM5のV10の轟きしか耳に入らない。
6100rpmのピークトルクに向かいながら加速の勢いは高まっていく。そして6500rpmで加速は一段と激しくなる。F430との差はさらに広がっていった。
M5の魅力は、そういう凶暴なエンジンだけではない。SMGのギアシフトもまたしかりである。最も攻撃的な変速モードを選び、8100rpmのレブリミットまで引っ張って、すかさずパドルを引いてシフトアップすれば、その素晴らしさがわかるだろう。
まず変速が速い。人間がMTを操作していたら絶対にこれほど素早くはできない。またシフトショックも極小だ。クラッチが切れる瞬間は明らかに衝撃があるが、再びエンゲージする瞬間にはほとんど何も感じない。
そしてこれが、いついかなる時も簡単に再現できる。人間ではそうはいかない。こうした点で、F430のF1マティックは、大方のパドルシフト式ギアボックスよりも優れてはいるけれど、M5に比べると洗練度でちと劣る。しかもギア段数はひとつ少ない。
そんなパワートレインによってM5は、2車線の国道での加速競争で、現在おそらく世界で最も憧れを集めているフェラーリF430を完全に打ち負かした。
こちらがスピードを緩めるまでに、F430との差は数十メートルにもなっていたのだ。F430に乗っていた編集部員も、これにはショックを受けたと後に述懐したが、わたしも同じようにショックだった。
高速での洗練度。座席の多さ。トランクの容量。装備の充実。1/2の価格。それに加えて加速パフォーマンスでもM5はF430を下したのである。
だが驚くのはまだ早かった。腰を抜かすような現実が次のセクションで明らかになったからだ。そこは起伏の多いオープンロードで、F430が、いかにもその本領を発揮できそうな道だった。