BMW M5 E60 vs フェラーリF430 新車当時の評価は? 回顧録(8)
公開 : 2017.10.21 12:25 更新 : 2017.10.21 14:21
M5、驚異の完封勝ち
実際、フェラーリはそこで水を得た魚のように走った。だが、M5はF430を凌ぐ走りを見せたのである。
コーナー進入も限界も、身のこなしのバランス感も、すべてM5の方が上だった。嘘ではない。本当だ。バンプだらけで逆バンクも頻出するこのワインディングが終わる頃には、後ろにいたはずのフェラーリの姿がどこにも見えなくなっていたのだ。
重量を考えれば信じられないほど洗練されたその立ち居振る舞い、カミソリのように鋭いステアリング、呆れるほど強力なグリップにブレーキ性能、見事なギアシフト、鋭いスロットルレスポンス、鮮やかな回頭性……とにかく衝撃的なまでにM5は凄かった。
写真撮影の待ち時間の間に見た夢ではないのを確認するために、同じ道でクルマを取り替えることにした。去年の試乗記でベタ褒めの絶賛原稿をそれについて書いた、他ならぬそのクルマのほうにわたしが乗るのだ。
ドアを開け、美しい赤いレザーを傷つけないように慎重に身体を滑り込ませ、深く息を吸い込み、新車のフェラーリに共通した独特の匂いを嗅ぐ。そしてステアリング上に設けられた、スターターボタンを押す。
そこでまず驚いた。耳に届くサウンドが、わたしが昨年イタリアで試乗したクルマほどドラマチックでなかったからだ。あのときのような暴力的な目覚め方はしないのである。またブリッピングしたときの吹け上がりの音とレスポンスも少々大人しくなった気がする。
サウンドが控えめなのはまあわかる。F430は吸気系の臓物がエンジンルームの右側にあるために、左ハンドル仕様車と同じ吸気音を、この右ハンドル仕様では聞くことはできないのだろう。
しかしスロットルレスポンスが多少鈍い理由は不明だ。制御ソフトが異なるのだろうか? それとも試乗会で乗ったあの左ハンドル車が、「何か特別な理由」で良かった個体だったのだろうか?
走り出して、驚きはもうひとつ増えた。F430のはエンジンの低〜中速のトルクが、M5ほど豊かではなかったのだ。360に搭載されていたV8エンジンにも同様な不満を感じたものだが、試乗会でのF430ではそれは解消されたとあの時は思った。
しかし、こうしてM5と比べてみると、F430のV8は5000rpm以下で多少貧弱に感じる。それ以上まで回してやれば、F430は猛然と加速していくことは確かだ。
だがそのときにはM5は遠くに行ってしまっているのである。