「好きモノ」どれ選ぶ? ランエボ/インプ/ルーテシアRS V6/Z直接対決 回顧録(9)
公開 : 2017.10.22 11:40
不思議なクルマ、ルーテシアRS V6
ルーテシアRS V6は不思議なクルマだ。グループBのラリーマシンを彷彿とさせる2座のミドシップカーであるが、実際にラリーでは活躍していない。このクルマのワンメイクレースは開催されているが、おもなステージはストリートなのである。
ところでこのクルマの発売当初、あらゆる方面から走りに関してブーイングが聞こえてきた。いわく、ドライでなければ怖くて走れないというのだ。ルノーではこの声を受けて、ルーテシアRS V6に大幅な改良を施した。
ラグナ譲りのV6をミドに搭載しているのは同じだが、シャシー全般に大幅な見直しが行なわれ、サスペンションはよりプログレッシブに動くようになった。
とはいえ、ウェットでは依然として緊張を強いられるクルマである。短いホイールベースとリアに集中した重量配分、それからあっという間にフルロックしてしまう切れ角の小さいステアリングという組み合わせには、大きなミスを受け入れる寛容さはない。
ルーテシアRS V6は過激なルックスから想像するほどは速くない。このクルマで最大の問題点はまさにこの部分で、「これだけ迫力ある姿をしてるんだから、さぞかし速いんだろう」と期待ばかり高まってしまうことだ。
しかし冷静に考えれば、1400kgという軽くない車重と255psのV6 3ℓエンジンの組み合わせでは衝撃的な加速は望めない。
だからといってコーナリングも絶賛するようなものでもない。背後に巨大な重量物を背負っていることを常に意識する。
姿カタチはFF版のルーテシアRSに似ているが、同じようにワインディングで振り回して走ることは不可能だ。間違ってもドリフトしようなどという命知らずの考えは起こさないほうがいい。
このクルマの最大の美点は何か?
それは官能的なエンジンサウンドと、うまく乗りこなせた時の満足感にある。テクニックを駆使してワインディングを軽快に走り抜けたとき、他のクルマでは決して味わうことのできない満足感を与えてくれる。
信じられないだろうが、それなりに実用的でもある。V6エンジンは低回転からトルクがあって扱いやすいし、乗り心地も意外なほどしなやかだ。高速道路では燃費がよく航続距離も延びる。
ボンネットの下にはポルシェ911のような物入れもあるから小旅行なら問題ない。だが、狭い駐車スペースに止める時には苦労する。極端に切れ角の小さいステアリングを何度も切り返えさなければならないからだ。それから、ESPが装備されてないので雨の日の運転は気を付けたい。
ルーテシアRS V6の総評
このクルマに600万円を投じることを正当化するのは難しい。1.2ℓモデルと同じ貧相なインテリアを見たら、たいていの人はポルシェのショールームへ移動してボクスターを購入してしまうだろう。そういう意味では究極の好きモノ御用達グルマである。