ブガッティ・ヴェイロン試乗記 完ぺきだけれど「魅力に欠ける」 (回顧録10)
公開 : 2017.10.28 10:10 更新 : 2017.10.28 11:14
ウインカーレバー1本が90万円!
ブシューによれば、ヴェイロンは(ベントレー)コンチネンタルGTと比べてもほとんど遜色のない快適なドライビングが愉しめ、必要とあらば日常生活でもアシとして使えるフレキシビリティが特徴だという。
だが残念ながら、大多数のオーナーはそんな使い方はしないだろう。ブガッティは今後6年間に300台のヴェイロンを生産する予定だが、その大半は博物館やアートギャラリーに展示されたり、個人のコレクションとしてガレージにしまい込まれる。
メーカーが開発時に想定したような使い方——つまりアウトバーンの速度制限解除区間を400km/hでカッ飛ぶようなドライビングをするひとは少ないはずだ。
いずれにせよ、われわれはこのクルマに試乗するチャンスを得て、アウトストラーダやワインディングロード、市街地といったさまざまなシチュエーションで走らせることができた。
アウトストラーダでは320km/h近い速度も出した(直線がもう少し続いてれば軽く340〜350km/hまで行けただろう)。冷静に振り返ってみるととんでもないスピードなのだが、意外にも恐怖は少しも感じなかった。そしてそれはブガッティが意図したところでもある。
まずコックピットに乗り込む動作からして、ヴェイロンには緊張を強いるようなところがない。見事な作りのアルミのドアハンドルを引けばドアが大きく開き、少しばかり高くて幅のあるサイドシルをまたいでしまえば、カーボンファイバー製で豪華な革張りのシートに楽々と身を収めることができる。
室内でまず目につくのは、美しいロゼット模様が施されたアルミのセンターコンソールである。あちこちにきわめて高価なアルミとマグネシウムの特殊合金が使われていて、たとえばこの合金を使ってウィンカーレバーをひとつ作るのに約90万円かかるという。ヴェイロンはたとえ1台=1億6300万円の価格で売っても少しも儲からないクルマなのだ。
計器類は小さく、ごちゃごちゃして見えるが(特にスピードメーター)、全体的なルックスとしては世界でいちばん素晴らしいキャビンなのは間違いない。ただし、ドライビングポジションが低すぎる点と、Aピラーが太く死角があるのが気になる。
エンジン始動ボタンを押すと、スターターモーターの甲高い唸りが聞こえ、素晴らしいエグゾーストサウンドが轟く。その音質は大排気量V8のそれに似ているが、巨大なターボの吸気音をはじめとするさまざまな騒音が独特の凄みを醸し出す。
だが、それはランボルギーニやフェラーリのような魅力的な響きではない。ヴェイロンは圧倒的なサウンドというよりも、繊細なメカニカルノイズのハーモニーによって存在感を主張するクルマだ。