ブガッティ・ヴェイロン試乗記 完ぺきだけれど「魅力に欠ける」 (回顧録10)
公開 : 2017.10.28 10:10 更新 : 2017.10.28 11:14
ふたつの驚き 強烈な体験
走り出してすぐにわかるのがスムーズな操舵感と、スロットルの微調整しやすさ、驚くほど滑らかな動きギアシフト、そして落ち着いた乗り心地である(それと同時に前方視界の良さと後方視界の悪さにも気づく)。
スロットルを全開にしたとき、このクルマがいかなる振る舞いとドライビングフィールを示し、どんなエグゾーストサウンドを聞かせてくれるのか。早く確かめたくて仕方がないが、そう簡単に全開にするわけにはいかない。1001psに敬意を表して、マシンと対話しながら徐々にペースをあげていくことにする。
そのプロセスで、わたしは「ヴェイロンがベントレーと同じくらい運転しやすい」というブシューの説明が決して誇張ではないことを悟った。
あまりにスムーズで、穏やかで静かな走りに戸惑いと疑念を覚えたほどだ。これで本当にマクラーレンF1を軽々と打ち負かすほどのパフォーマンスを持っているのだろうか。
そんな気持ちを抱きながらしばらく走り、開けた道路に出てから「ハンドリング」と記されたボタンを押してみる。すると即座に車高が数ミリ下がり、後方で巨大なリアスポイラーが持ち上がった。
4速ギアでスロットルを少し強めに踏むと、ペダルの総ストロークのまだ半分ほどしか使っていないのに背後からヒューという音が響き、コンマ5秒もたたずに強烈な加速が身体を襲った。ヴェイロンがついにその本当の正体を現わしたのだ。
わたしは驚いてすぐにスロットルを戻した。そしてしばらくは何が起きたのかわからなかった。ゆっくりと流しながら、わたしは直前に起こった出来事を頭の中で整理してみる。
スロットルペダルをストロークの半分ほど踏んだとき、ギアは4速で、スピードはわずか70km/hだった。それからものの2秒も経たないうちに、ヴェイロンは1速7500rpmでポルシェ911を全開発進させたときのような加速を見せたのだ。
そしてもうひとつ、強烈な体験が待ち受けていた。それもまた予想をはるかに超えたものだった。高速道路のランプに入り、まず3速ギアを選び、いったん60km/hまで減速。そこから思い切りスロットル・ペダルを踏み込んでみた時のことだ。
再び背後からヒューという音が響き、衝撃的な加速がわたしを襲った。それは何か強靱なゴムのようなものを限界まで引っ張ってから、いきなり放したような感覚だった。ダッシュパネルに黄色いランプが点滅するのが見えた。4速ギアで200km/hを超えるスピードで走行中に小さなバンプを越え、その瞬間、ESPが作動したのだ。
前方にコーナーが見えたとき、正直なところわたしはほっとした。スロットルを戻して、この容赦ない暴力的な加速を止める理由ができるからだ。この時点で、スロットルを最大まで踏み込んで10秒もたっていなかったはずだが、300km/hオーバーのスピードが出ていたと思う。