ブガッティ・ヴェイロン試乗記 完ぺきだけれど「魅力に欠ける」 (回顧録10)
公開 : 2017.10.28 10:10 更新 : 2017.10.28 11:14
完壁だけれど「魅力的ではない」
その後、わたしはマウンテンロードへと向かった。1900kg近い車重と現代のF1マシンさえ凌ぐパワーを持つヴェイロンは、ワインディングロードを苦手とすると思っていたが、果たして、実に素晴らしいハンドリング性能を備えていた。ブレーキも、ステアリングもお見事というより他はない。
コーナーをハードに攻め始めても、程よいアンダーステアに躾られたシャシーのおかげで冷っとさせられることはない。車重の重さを考えれば、ボディコントロールも優秀だ。盤石のロードホールディングをもって、厄介な路面でも難なく平定してしまう。
そんなのつまらない?
そのとおり。いろんな意味において、ヴェイロンが世界最高のクルマなのは認める。そもそもこんな化け物のようなクルマを作ろうとしたフォルクスワーゲンの決断と、それを成し遂げたエンジニアの努力は素晴らしいと思う。
だが、すべてにおいて最高を求めたがゆえに、ヴェイロンはひとつの領域において失敗をおかした。そしてそれはスーパーカーにとってきわめて重要なものだった。
途方もないパフォーマンスと見事な洗練度を持ちながら、ヴェイロンにはドライバーを惹きつけるエモーショナルな魅力が欠けている。
隅から隅まであまりにも洗練されすぎていて、われわれの心をわくわくさせるようなフィーリングに欠けている。フェラーリF40やマクラーレンF1、ランボルギーニ・ムルシエラゴといった超弩級のスーパーカーには必ず「それ」がある。
もちろんブガッティは最初からそのような意図はなかったと反論するだろう。ブガッティによれば、ヴェイロンは「技術的に究極のクルマ」である。
ロードカーとしての洗練度と数値的なパフォーマンスを追求したクルマであって、エモーショナルな喜びや魅力的なエグゾーストノートは些細な問題だと考えている。ヴェイロンの技術的な指向性は「純粋なスポーツカー」ではなく、あくまでも「オールラウンドな最速マシン」なのだ。
確かにヴェイロンは1001ps(理想的なコンディションなら1100ps)ものパワーを秘め、400km/hオーバーという記録的なトップスピードを達成し、素晴らしく洗練された7段DSGギアボックスを持つ。
エンジニアリング的な達成度において、このクルマは今後長い間、いやおそらくは永遠に無敵の存在であろう。
しかしだからといって即「世界最高のスーパーカー」という称号を与えるわけにはいかない。
世界一素晴らしいクルマかと問われれば、その答えは間違いなくイエスだ。
しかし世界一魅力的なクルマかと言えば、必ずしもそうは思えない。そう言い切るには決定的に欠けているものがある。