試乗 ジャガーE-タイプ 当時ジュネーブでの展示車両で発表の地へ
公開 : 2017.10.28 17:10
音、香り、感覚、味わい
アルプスのワインディングはこのE-タイプを試乗する完璧なテストコースであった。
E-タイプの試乗レポートは山ほどあり、長いボンネットの横たわる前方視界や並外れたスピードについて多く語られているが、実際に乗ってみるとまた新たな体験がある。
モスのギアボックスは難物だというひともいるが、このクルマのように状態の良いものでは何の不都合もない。1速に入れるときの前方のストロークが長く、またリバースと近接しているが、馴れればワインディングでの頻繁なタッチもどうにかなった。
さて、クラシックカーを評価する際、「相対的」という言葉が重要だと自分は考えている。例えば、E-タイプ発売当時のほかのクルマのレベルを考えてみよう。MG-Aから初めてE-タイプの乗り替えたときにどれだけ洗練されていると思うだろうか。
走り出せばステアリングはすぐに軽くなる。路面からのインフォメーションは豊富で、けっして過剰ではない。初期モデルの3.8ℓの「パンプキンヘッド」エンジンは、エグゾーストノートがかなり大きい。アクセルを踏み込むと、さらにノイズが荒々しくなる。
ブレーキは通常のドライブには良好だが、ハイスピードでは利きが充分ではないと感じるだろう。しかし、素早く、しなやかで、トルクもあり、ワインディングも難なくこなしてくれる、とても優れたドライバーズカーであることは確かだ。
ジュネーブに到着すると、オー・ヴィヴ公園に向かった。天気の良い日で、地元の学生達がのんびりと昼休みを楽しんでいた。E-タイプをレストランの入口付近に止め、当時の写真を手にもって店内に入り、ローンチのために885005が置かれていた部屋を見つけた。室内のレイアウトはそのままで、漆喰もまだかなり残っている。だが、どうやってこの部屋にクルマを入れたのか、どうしてもわからなかった。
店の外に出て、今度はライオンズがドアを開けた9600HPの傍らに立ち、粋な姿でルーフにもたれたあの有名な写真の撮影場所を探した。
それから再びE-タイプに乗り、公園の端に向かって進んだ。ここからレストランまで緩やかな上りのスロープになっている。そこでじっとシートに座って、静かに54年前のことを考えた。
9600HPと885005の両方を目にし、今わたしが駐車している場所に向かってスロープを下ってくる各国の記者連中のざわめきを思い浮かべる。
自動車の歴史の特別な瞬間の一部になれたことを、きっと彼らは嬉しく思っただろう。石碑に銘を刻むかのように、その時のことは自動車の歴史にはっきりと記されている。