「タイプR」再考 1992年式NSX-R vs 2017年式シビック・タイプR
公開 : 2017.10.29 10:10 更新 : 2017.10.29 11:38
シビックのことを忘れそうになる
1992年の基準でなくとも、ほとんどのハイ・パフォーマンスカーがその大径ホイールに合わせてストロークの長いサスペンションを装着するようになった現在では尚更そう感じる。当時の評価は間違っていない。
25年前、NSX-Rの硬い乗り心地は、病院のストレッチャーにのってスペイン階段を駆け下りるかのように感じられたことだろう。
ありがたいことに、少しペースをあげると乗り心地は改善され、路面不整のひどいセクションにおいてもNSX-Rのボディを落ち着かせるのに十分なダンピング能力を発揮し始めた。運転中は騒々しいが、路面から飛びだすような事はない。
岩のように硬められたボディは、滑らかなセクションでのコントロール性と、コーナーでのボディ安定性との交換条件だ。
ノン・アシストのステアリングは最高に素晴らしい。低速コーナーではステアリングを保持するために若干の力を必要とするが、ステアリングの微妙な操舵を通じて、フロントタイヤからはわずかなスリップの兆候や、アスファルトの粒立ちまでが感じられる。
より高い速度域では、ステアリングの動きを指先で抑えつつ、ほんのわずかゆっくりとステアリングを切ってやる事で、クルマを次のコーナーへと導くことができる。こんなステアリングの感覚は現代のスーパーカーからは完全に失われてしまったものだ。
ブレーキは強力であり、トラクションも十分。それでもハンドリングやドライブトレインが主役とは言えない。
数値だけ見ればエンジンのパワーとトルクは十分とは言い兼ねるが、公道上ではNSX-Rはスーパーカーにふさわしい速さを見せてくれる。
リミッターが近づいても、V6エンジンは回転の上昇をやめようとはせず、8000rpmを越えて更に延びようとする。エンジンバルブが軋むほどにNSX-Rは速さを増していき、エグゾーストは増々その迫力あるサウンドを響かせる。
しかし、真の主役はそのマニュアル・ギアボックスである。その素晴らしさは驚くべきもので、ストレス解消用にこのギアボックスをそっくりそのままオフィスに持ち込みたいくらいだ。シビックのギアボックスも素晴らしいできではあるが、NSX-Rほどの中毒性はない。
つまり、25年前にNSX-Rを作りだす事になった閃きがどのようなものであったにせよ、ホンダにはまだその閃きが残っているという事だ。