80年代ヒーロー対決 M3スポーツ・エボ vs シエラRSコスワースvs 190E 2.5-16(1)
公開 : 2017.11.03 11:40 更新 : 2021.01.30 21:04
軽やかに高回転域へ トルク不足払拭
M3スポエボのパワーユニットは、オリジナルM3の2302ccを2467ccにスープアップした4気筒DOHCだ。最高出力は238ps。わたしは当時のM3スポエボのエンジン組み立て職人は、BMWの工場内で最も高給取りではなかったかと想像する。なぜって、20年近い歳月を経で、12万km以上の距離を刻んだレーシングユニット直系エンジンが、今もって信じられないほど乱れなく吹け上がるからである。
ゲトラグ製5段MTのシフトレバーを左手前に引いて1速に入れて走り出す。と、スロットルペダルのミリ単位の動きにエンジンが正確に反応することに驚く。
しかしこのエンジンは2.5ℓの排気量から想像するほど力強くはない。エンジン回転数こそスムーズに上下するが、トルクは全般的に薄い印象だ。少なくとも街乗りでは全回転域でトルキーなシエラRSコスワースや、レスポンスの鋭い190E 2.5ー16と比べるとドラマ性に乏しい。
そんなネガを補って余りあるのが高回転域での伸びの良さだ。レブカウンターの針が5000rpmを超えると力に満ち溢れ、そこからレッドラインの始まる7000rpmまで狂ったように吹け上がる。M3スポエボのDTMレース用エンジンは10,000rpmまで回るというが、ストリート仕様でもその片鱗は感じられる。
思えば、初代M3が登場するまで、これほど魅力的なハンドリングを備えたBMWは存在しなかった。そういう歴史的なモデルを今走らせて抱くのは、昔のロードレーサーに時を超えて再会できたという懐古趣味的な喜びではない。
あくまでも想像に過ぎないが、たとえばE46型M3に20年後に乗っても、これと同じ感動を味わうことはできないだろう。車重が1200kgしかないM3スポエボは、現在のいかなるBMWにも真似のできない繊細なレスポンスと正確なハンドリングを備えている。
そうそう、M3スポエボを走らせる上でひとつだけ注意点がある。とにかくタイヤのグリップの変化に耳をそばだてること、それが肝心だ。
特にフロント・サスペンションは相当に締め上げられているので、十分に暖まっていないタイヤと冷え切った路面、あるいは濡れた路面と高すぎる進入スピードの組み合わせにはくれぐれもご注意を。