比較試乗 アストン マーティンV8ヴァンテージ vs ポルシェ911(997) 後編
公開 : 2017.11.23 15:40
「わたしはこの道が大好きなんです」
V8エンジンは1700rpmあたりからパワーを増し、3700rpmから上では本物のスーパースポーツらしい迫力のある加速を発揮し始める。
5000rpmに達すると唸りは咆哮に変わり、トップエンド(レッドゾーンは7000rpmから)にかけて一気に炸裂する。ひょっとしたら格上のアストンV12の滑らかな「ヒュイーン」という洗練されたサウンドよりもこのV8の野太くて刺激的な咆哮を好む人は、少なくないのではないか。
そう思わせるほど、V8ヴァンテージが発するサウンドは魅力的だ。
と、いいペースで走り続けていたベッツが、とつぜんわたしにこう言った。
「わたしはこの道が大好きなんです」
その言葉を聞いた時、わたしはそれはエンジニア特有の一風変わった情緒的な感情に違いないと思ったが、そうではなかった。
ベッツはスムーズで開けた道をわざわざ外れ、ボコボコに荒れた所々に大きな波打ちや凹凸がある道を、時にジャンプしながら(しかもかなりのスピードで)飛ばしていく。
もちろんシャシーにとってもタイヤにとってもかなり過酷な仕打ちであるのは間違いない。アストンの経営者は仕事熱心なのだ。
わたしならこのクルマでそんなトバし方はしないし、もしサスペンションがボトミングしたら、それで終わりにするだろう。だが、実際にはボトミングはまったく起こらなかった。
いや、より正確にはボトミングする気配すらなかった。最悪の(だがベッツにとっては最良の)道を攻めまくっても、姿勢は奇跡のように安定していた。
ボディは隆起を乗り越えて宙に浮き、そしてきれいに着地する。究極の柔軟性を備えたすばらしいボディコントロールだ。おまけにシャシーには巌のような剛性感がある。
ポルシェがテールヘビーな重量配分に起因する突発的な挙動を抑えるために締め付けた硬い乗り心地とは似ても似つかない。
ベッツはニヤリと笑った。そして思わずポルシェへのコメントを漏らした。