中編 高速グループテスト ヴェイロン vs 911GT3 RS vs ガヤルド・スーパーレジェーラ vs DB9 vs R8 回顧録
公開 : 2017.12.16 17:10
ヴェイロンも「ただのクルマ」?
われわれに与えられた時間そう長くない。ヴェイロンのレンタル期間はわずか24時間しかないのだ。そのこともあり、わたしはとにかくヴェイロンに乗ってみたくて仕方がなかった。もしかすると肩すかしを食らったような印象を受けるかもしれないが、それはそれ。結局のところ「クルマ」という乗り物には違いないのだから、法外な期待を持ったのが間違いだったということだ。
たとえばこうだ。乗り込んだらまずセンターコンソールを覆う切削アルミパネルの上に指を滑らせ、感触を楽しむ。巨大なバケットシートの快適さとサポート感を味わいながら、ステアリングコラムにあるワイパーレバー(1本100万円近くするらしい)をいじってみる。
そしてこう考えるのだ──「ここの居心地は素晴らしく快適だ。けれどやはりただのクルマでしかない。4つの車輪の上に載っているにすぎない物体が、どうやったらこれほどの金額に見合う何かに化けるのだろうか?」
この疑惑を晴らすのは簡単である。実車が目の前にあるのだから。というわけで乗り込み、妄想したとおりの儀式をすませると、おもむろにキーをひねってスターターボタンを押してみた。8.0ℓW型16気筒4連装ターボのエンジンに、豪華な爆発音とともに生命が吹き込まれる。スロットルペダルを軽くあおるとクランクシャフトが即座に反応する。競技車輌のような猛々しさはないが、大容量ターボにしてはとても歯切れのよいレスポンスだ。これなら疑惑は晴れるかもしれない。コイツはプライスタグに見合う代物だ、と。
今回のラインナップのなかではこのクルマに次いでエキゾティックなガヤルドと並べてもなお、ヴェイロンのフィールは際立っている。より高価でより複雑なのだ。ステアリングの反応の仕方が異例にスムーズなことも、駐車場の中での移動のために低速でごくわずか動かしただけでわかる。磨き上げられた機械だけにある洗練された深みが確かに内在している。この感覚はほかのどのクルマでも味わえない種類のものだ。もちろんアストン マーティンでもおよばない(情け容赦なく正直に言えば、アストンは「とくに」およびもつかない)。
パドルを操作して1速にシフトし、いよいよ公道に出る。待ちこがれた瞬間だ。ところがわずか500mほど走ったところで、早くもヴェイロンは他車では到底およびもつかない走りを披露してくれたのである。