北極圏の凍結路「アイスロード」 オイル・ブーム時から一転、絶滅も? AMG GLE43で走ってみた
公開 : 2018.02.03 21:10
アイスロードの将来
トゥクトヤクトゥクに到着すると、どうやらこの町の素晴らしい時代は過ぎ去ってしまったらしいことに気が付いた。地元のレストランは閉まっており、たった1軒しかないホテル「トゥク・イン」にも板囲いがされている。
オイル・ブームの最盛期には1万人以上の作業員を駐在させていた油田開発の多国籍企業も既に町を去っていた。まさに過去の場所だった。打ち捨てられたクルマや家、固く閉ざされた氷に囲まれた錆びた船の残骸などが残っているだけだ。
唯一目立つモダンな建物は、ニック・ブラムという気の良い警察官がいる王立カナダ騎馬警察のオフィスだった。「静かな場所ですが、時々は事件もあります」と彼は言う。「去年の夏、2頭のホッキョクグマが町に迷いこんで来ました。そのうち1頭を射殺しなければならなかったんです」
これまでは、アイスロードが溶けて使えない期間、穏やかな春も夏も、そして秋も町は孤立した状態で、この人口800人の町に必要な物資はわざわざ運び入れる必要があった。この孤立した町に住むひとびとにとって、冬は真の自由を手にできる唯一のシーズンだったのだ。
冬の訪れはマッケンジー川の凍結を意味し、親類を訪ねたり必要なものを買いに出かけたりするためにクルマが使えるようになることで、より広い世界との繋がりを感じる事ができる。そして、われわれのような旅行者にとっても冬は特別な冒険の機会になる。北極海を見物しても良いし、その上をクルマで走ることも可能だ。
それなのに、アイスロードはこの先も永遠には続かないという。ツンドラ地帯を横断する新しい陸地の上をとおる道が最近開通して、1年中使えるようになったことで、アイスロードをもはや過去のものにしてしまうかも知れないのだ。
しかし、地元のひとたちは3億ドルを掛けて造ったこの常設の全天候型道路も、政府が言う通りにはアイスロードの代わりにはならないだろうと話す。
「この辺りにはアイスロードの存続を求めるひとたちが大勢います」とブラム。「政府は新しく年中使える道が完成すれば、アイスロードのメンテナンスをするための資金を集めると言っていますが、地元では何れにせよ何らかの形でアイスロードは残るだろうと話しています。例えいくつかある探査基地専用の道路になったとしてもです。この辺りの観光業にとって、アイスロードが全線残ることの影響は大きいはずですから」
美しいサンセットに見送られながらアイスロードを再び引き返してイヌヴィックの町に夜遅く辿りつくと、2018年以降もこの道の一部を残しておく計画があることを知った。
北極圏での生活は何が起こるか予測できないところが素晴らしい。アイスロードのように。