ホンモノの誘惑 中古で探すアストンDB7/フェラーリF355/ポルシェ911ターボ 前編
公開 : 2018.02.05 10:40 更新 : 2018.02.05 16:09
アストンの救世主
DB7がどれほど成功したかを直感的に理解したいのであれば、この数字を覚えておくといい。アストンが1914年に創業して以来、昨年末までに例のウイングマークを付けたクルマは2万2000台ほど生産された。そのうちの実に7000台あまりがDB7である。絶対的には決して大きい数値ではないが、アストンにとって空前の大ヒット作なのは明白だ。
そして、この成功が当然の結果だったのは、実物を見ればすぐに理解できる。精妙の限りを尽くしたデザイン、特にテールまわりの豪奢な曲面の優美さと魅惑的なラインは筆舌に尽くしがたい。「史上もっとも美しい1台」と呼ぶひとさえいることもすんなりと受け入れられる。
巨大な6.0ℓV12がスチール製のボンネットの中に押し込まれたとき、このクルマの価値は突如として暴騰した。それまでの、吸気音が苦しげなスーパーチャージド直6エンジンは、取り立てて注目に値しない代物だったが、V12のパワー、サウンド、そして魂を得て、そのキャラクターを豹変させたからだ。
それが大いにウケて、DB7の売り上げは50%も急上昇した。危機的状況にあったアストンがやっと安心してひと息つけたのは、このクルマのおかげである。
今回、このV12ヴァンテージがスポーツカーディーラーのモールヴァレーに届いたとき、ショップはそのとてつもない状態のよさに沸き返ったという。オドメーターの表示は4万5000kmで、上り調子の真っ盛りといっていい。マニュアルシフトの2000年式で、しかも全整備履歴も付いている。運転席に身を沈めると、まるで工場から出てきたばかりの新車のようだ。
ただし、フォードやマツダから借用してきたスイッチ類のチープさや、カーペットがきちんと固定されていなくて隙間からフロアパンが見えるなど、細かい問題はあった。商品としての最大のネックは、最初のオーナーのセンスを呪いたくなるほど見事に能天気な、オレンジとブルーのインテリアカラーだろう。アストンのアラカルト・オーダーも、こういう使い方をされてはむしろ害悪になる。