ホンモノの誘惑 中古で探すアストンDB7/フェラーリF355/ポルシェ911ターボ 前編
公開 : 2018.02.05 10:40 更新 : 2018.02.05 16:09
じゃじゃ馬慣らしもまた一興
ステアリングの位置が遠すぎて、快適とは言い難い運転環境であることは乗り込んでみてすぐにわかったが、その程度でこの3.5ℓのチンクヴァルヴォーレ90°V8を始動するのをやめるわけがない。エンジンキーを時計回りに最後までひねる。スターターモーターが一瞬回転したかと思うと、即座にV8がそれに応えて咆哮とともに目を覚ました。なんと素晴らしい響きなのだろうか。スポーティなエグゾーストノートで、場の空気は一気に盛り上がる。
スペックシートによると、このV8は8200rpmで380psの最高出力を、5800rpmで36.7kg-mの最大トルクを発生する。けれど、この性能を公道上で実感するのは割と大変な作業だ。このサラブレッドは普段は居眠りがちで、覚醒させるには6000rpmまでムチを入れてやらなければならないのだ。
ただし、いったんやる気を出してくれればこっちのもの。ギアチェンジの楽しさは、今やスタンダードになったF1シフトでは決して味わえない滋味にあふれ、そしてあとにした道のりは1kmごとに人生を豊かにしてくれるだろう。
DB7のあとに乗ると、このクルマを操るには実にデリケートな手順が欠かせず、微妙な入力が勝負の勘どころとなり、そしてミドエンジンのレイアウトとドライバーを補助する手段をなにひとつもたないシャシーが極限の注意深さを要求する気むずかし屋であることに気づく。
爆発的な加速や安定した巡航では、確かに911ターボにはかなわないかもしれない。だが、このクルマを買おうというひとは全員このクルマのなんたるかを深く理解し、そして愛しているのだと実感できる。世界中のセレブたちがこの浮気で気まぐれできっぷのいいイタリア娘に頭が上がらないのも、まったく無理はない。